【非公式】メシーカ アナザーストーリー 第4部
これは主の頭の中の妄想を膨らませた非公式のメシーカ。アナザーストーリーであるー。
目次
16.信仰
ー。
場所はメシーカ丘陵地帯。トール達が海岸地帯を出立し三日程経過した頃、ラファエルは単身その場所に居た。地に生い茂る草花は風の抱擁を受けて耳障りの良い呼吸をそよそよと続けている。ここは生命の活力で溢れ、太陽が向ける陽の光はとても温かい。
「ミカエル、やはりここに居ましたか。」
ラファエルが正面に見据える先、甲冑の天使は居た。彼の精神を縛る念が鎖へと具現化し、背に絡みついて純白だったその翼は漆黒へ変質している。
「断っておきますが、私は貴方がどうなろうと構いません。しかし貴方は救世主様を守る使命も全う出来ず、こうも堕落している。これでは我が領土の名折れです。その罪、しっかりと償って頂きます。」
ラファエルは派遣された断罪人が如き口調でミカエルを罵った。見詰める目は氷のように冷たく温情を欠片も感じられない。
「グギギぎっ、ラファエルッ!貴様!良くぞ我が眼前に姿を現した。我の姿が見えるか、俺、俺だ、俺を見ろッ!この気高きの翼をッ!この大地のパワーが俺をさらなる高みへと昇華させてくれたッ!もう、貴様には負けん…!」
ミカエルは精神を大きく乱すものの、アテナとは異なり自我をほとんど残していた。無論、ハデスらがアテナと戦い得た知識をラファエルが知る由は無く、素行まで醜悪になったか、としかラファエルは思わない。
「我に挑んだ愚かさを悔いよ…!行くぞ!ラファエルゥうう!!」
怒号と共にミカエルが空高く腕を突き上げ、未知の呪文を詠唱するとラファエルの足元に地獄の門が顕現した。
《ルシファーの冥門》
時間差のある確定除去
(これは…。)
地中より出でた冥土の死神がラファエルの身を掠め取ろうと大きな鎌を振り抜く。ぶぉん、という鈍い音が空間を切り裂き、その軌跡は虫の息すら残さない。
……、…、…。
死神が繰り出した一閃の先には刈り取られた歪みを残す空間。そこにラファエルの姿は無い。ミカエルは手応えを感じ、空高く咆哮する。
「うォおお…!やった…、やったぞ…!」
「何をやったんです?私はここですよ。」
間髪なく返ってきた声の先へ目を戻すと、ラファエルが不敵な笑みを浮かべ先程と同じ位置に立っている。ミカエルは思わずぎょっ、とした。自身が召喚した死神が消えている。
「貴様っ!何処へ隠れた!ええい、もう一度だ、出でよ地獄の門!奴を呑み込め!」
《ラファエルの慈雨》
地形生成スペル。デメリット地形の上書きもできる
「…ッ?!」
今度は召喚された門が一瞬にして消失してしまった。ラファエルが何かをした様子は無い。その場で変わらずに立ち尽くし、笑ったままである。
「貴様…!何をした…ッ!」
ミカエルは全身で怒り、ラファエルを睨むことしか出来ない。両者の実力の差は歴然であった。
「怠惰ですね。貴方に一つ、教えを与えましょう。」
《ベリアルの幻炎》
トリッキーな盤面依存除去スペル
ラファエルが呆れた様子で髪を一つ搔き上げると、その刹那ミカエルの身は炎で焼かれていた。ミカエルには何が起こったのか分からない。
「ぐ、ぐぉおお…!」
全身を覆った猛々しい炎はミカエルの情念に冷水を浴びせ、思考を停止させる隙を作り出した。
「貴方は私達の領域で、一体何を学んだのですか。貴方の正義とは。貴方の信仰とは、一体何なのですか。」
ラファエルの言葉がミカエルの心の核に入り込んでくる。
「貴方が是とした正義を、信仰を、何故信じてやれないのです。私が今やったことは貴方にだって出来て当然。未来を今に置き換える時間の操作です。私達の大いなる信仰によって獲得した力はこれ程までに偉大で、一途な信心の成せる技。それを一時の情で薄汚れた異界の力に身を堕とし、これまで積み上げた物を全て捨て。それで真の高みへ登れるとでも?恥を知れッ!」
《聖樹の杯》
トリニティランプの顔となるスペル
ラファエルには信仰を捨てたミカエルが許せなかった。発せられた声は諭しの文句の裏、煮え滾る怒りであふれている。
(そうか…。俺は…。力を求めるあまり道も半ば自分の正義を捨てたのか。)
(俺はお前に勝ちたかった。ガブリエルにも。俺は誇れる自分で在りたかったんだ…。)
失いかける精神の中でミカエルは自らの心の弱さを悔いた。燃え盛る炎に身を焼かれながら自らの欲とその咎に気付いたミカエルの身が発光し、彼を縛っていた鎖と黒のオーラが宙へ霧散しはじめる。そんなミカエルの異変にラファエルは気付きながらも、呪文は解かなかった。そのまま彼方へと葬るつもりなのだ。
ーッエイルの癒し!
《エイルの癒し》
高密度のライフ回復スペル
「ーな…ッ!」
ラファエルが咄嗟に振り返ると、そこにはトール達が居た。ミカエルを焦がした炎がフレイヤの癒しによって見る見るうちに浄化されていく。
「余計なことを…!」
ラファエルは怒りで顔を硬直させている。
「おい。お前。ふざけるなよ!!」
トールは出合頭に拳でラファエルの顔をぶち抜いた。鮮血を風が運んでいく。
「お、俺は…、助かったのか…。」
「ひぇ〜。今のはマジ危なかった、姉さん、毎度ッ!ナイスフォローっス!」
命拾いしたミカエルの様子を見てアヌビスが安堵の溜息を吐いている。そんな中トールとラファエルは睨み合い、互いに沈黙したまま対立し合う。言葉にせずとも互いの気持ちは両者に伝わり、相容れず、どうやら両者の間には決定的な溝が出来たようであった。
そうしてトール達一行は蒸発したラファエルと守護神ミカエルを回収することに成功したのだった。
17.本懐
ー。
一行がメシーカに上陸してから七日目の早朝。トール達は山岳地帯を飛行していた。切り立つ山々は立ち込める濃霧によって視界が奪われ、来訪者に厳しい表情を見せている。ここでは光のほとんどが遮られてジャンの透明能力が役に立たないため、一行は生身で歩を進めていた。トリニティ領の者も付かず離れずな距離を保ってトール達の後を付いてきている。
「直に特異点到着だ。この辺りァ、視界が悪りィしワイバーンの巣がそこらじゅうにあるから慎重に進めよ。」
ケツァルコアトルが警告する。辺り一帯をグワァ、グワァ、というワイバーンの奇声が木霊してその音は止むことがない。一行は奪われた視界の中、いつ何処から飛び出してくるか分からないワイバーンの存在に、冥土の入口へ片足を突っ込んでいるような感覚に襲われた。一行は五感を高め周囲を警戒しながら少しずつ進む。
(チッ、ワイバーンの野郎、やけに殺気立ってやがる。一体何が起こってンだ。)
異様な空気の中、幾つかのワイバーンの巣を素通りした先にかの侍は居た。
「スサノオ様…っ!」
ウズメが声を掛けるも反応がない。その出で立ちは全身赤いオーラで染まり、幾多の数え切れない戦を潜り抜けたであろう様子をまざまざと見せ付けるように鎧の部位はボロボロに傷付き、本人も多くの血を流し息を荒げて居た。スサノオの横にはワイバーンの骸が数体だらしなく転がっている。ケツァルコアトルはそれを見るなり事の原因を理解した。未知なる生物が突如自分たちの縄張りに現れ同胞を食い散らかしていることに、ワイバーン達は膓を煮えくり返らせているのだ。
「スサノオ様!」
ウズメはスサノオの正面に回り込み、彼の目をじっと見詰めながら声をかけ直した。
「ゼェ…ゼェ、なんだ、新手か?」
「私です、ウズメです…!スサノオ様をお迎えに参りました!」
ウズメはか細くも芯の通った声で自分の存在をスサノオへ伝えるが、スサノオは錯乱状態にあるらしくウズメを認識できないでいる。
「切っても、切ってもお前らウジャウジャと湧いて来やがる。いいぜ、まとめてかかって来やがれ…!」
スサノオは取り付く島もない様子で怒気を周囲にピリピリと放り散らし、狂戦士となってウズメへ突進して来た。
振りかざすスサノオの剣は雷のように空を断裂する。ウズメはそれを軽やかな身のこなしで辛うじて躱すが、スサノオの殺気に気圧され恐怖に足が竦んでしまう。
(こ、怖い…。)
スサノオは容赦無く二の太刀、三の太刀をウズメに向け続ける。ウズメは躱すのが精一杯で反撃に出ることが出来ない。
「ダメだ、やっぱり俺が行こう。」
二人の応酬に見兼ねたトールはウズメの下へ駆け出そうとしたが、フレイヤがそれを止めた。
「あなたが行っても何も解決しませんわ。これはイズモの、ウズメさんの戦いです。」
でもよ、とトールは言いかけたが、迷いの無いフレイヤの表情を目の当たりにして思い直し、戦いの機微を見守ることを選んだ。
(きっと、私がスサノオ様にできることは何ひとつ無い。それでも…逃げない!)
ウズメは幾許か逡巡するも、自身に退路など端からないと理解していた。あとは自らを奮い立たせる“助けたい”という想いの丈をぶつけるのみ。
「スサノオ様。今のウズメの全力、受け止めてください。参ります!」
ウズメは覚悟を決め、前に出た。スサノオがウズメの意気に呼応し深く太刀を踏み込んでは、ウズメがその攻撃をひらりと躱し、或いは受け流して二つ三つとスサノオへ傷を付けていく。その華麗な身捌きは蝶が舞うように優美でどこか儚く、命のやり取りが行われていることを忘れさせる程に洗練されている。
「やるじゃねえか。でも太刀が浅ぇんだよ!」
スサノオの怒りは最高潮に達し、ウズメを圧倒した。繰り出す剣圧は逃げるウズメの身体を搦め捕り、重篤な傷を負わせる。
「きゃあ…っ。」
トールがもう我慢ならない、と思うより先に身体が動き出そうとしたその刹那、二つの影がスサノオを強襲する。
ーグワァッ、グワァッ!
ワイバーンであった。その二つの個体は通常のワイバーンの体躯をゆうに超えていた。変異種である。
「マズい、あいつァワイバーンの王族だ!」
咄嗟にケツァルコアトルがそう叫ぶ。羽ばたきが起こす風圧は嵐のように抗い難く、その眼光は自らの縄張りを荒らす土着者に対して強烈な敵意を剥き出している。
二匹のワイバーンはスサノオ目掛け一斉に炎を噴き出した。スサノオの足元に伏せるウズメは深い傷で逃げる事が出来ない。
「ウズメーッ!」
トールの咆哮が木霊する。スサノオは押し寄せる焔に刮目した。刹那、業火が二人を包んだ。
ードォーン!
「そ、そんな…ウズメさん…。」
アヌビスはそれ以上言葉を継げないでいる。絶体絶命とその場にいる誰しもが思った。黒煙が次第に晴れていく。視界が晴れた先には、炎から全身でウズメを守るスサノオが居た。
(俺は何の為に戦ってるんだ。)
(何の為に力を求める。もっと強え奴と戦って、倒して、倒して、修羅の先に何があるってんだ。)
炎に包まれる刹那スサノオは逡巡し、落とした視線の先にはウズメが居た。
(ウズ…メ?)
(そうか…俺は…。こいつらを守るために強くなる、って。そう、決めたんじゃねえかよお!)
スサノオは窮地を前にして、自身が力を求め続ける中で見失った武士の本懐を取り戻したのだ。
「わりぃ、俺のせいで沢山傷つけちまった。すぐ片付けっから、ちっと待ってな。」
ウズメは辛うじて保った意識の中、いつもの凛とした表情のスサノオを見て安堵し、涙を流しながら首を縦に振った。スサノオはそんなウズメを優しくギュッと抱きしめると、ワイバーン二匹を正面から見据えた。
刀を両手で中段に構える。そこからワイバーン二匹が骸となるまで三秒とかからなかった。スサノオは二十メートルはあったであろう対象との距離を一の踏み込みでゼロにし、神速で刀を振り抜くとスサノオの背はワイバーンの鮮血で赤く染まっていた。肉塊が地に落ちぼたぼたと音を立てている。
「すまねえ、迷惑をかけたみてえだ。ムシが良くて悪りぃがウズメのこと、介抱してくれると助かる。」
スサノオはトール達に詫び、助けを乞うた。
「承知しました。一先ずこの場を離れましょう。」
フレイヤが周囲に充ち満ちる殺気を警戒して言った。そうしてウズメはスサノオを助けることに成功したのであった。
18.思慕
ー。
一行がメシーカの地に降り立ち九日目の昼。トール達は砂漠地帯を飛行していた。この辺りは陽が差す内は万物が灼熱の熱線に照らされ、また夜になると極寒へと表情を変える命を有する者にとって過酷な環境になっている。生命の活動は酷く制限され、トール達にとっても長居は出来ないと思わせる世界であった。
ジャンが暑さに弱ったため、一行は彼方まで延々と続く同じ景色を生身で進んでいく。
「みんなヘバッてますねえ〜。おいらにとっちゃこれがホームだから、なんとも思わねぇや。」
一人アヌビスだけが普段と変わらぬ様子で、周囲を茶化している。彼なりに皆を元気付けようとしているのかは分からないが、フレイヤから見てアヌビスは普段より口数が多く、また意味のない言葉ばかり発しているように受け取れた。
「イシスも普段スカしてる癖して迷惑かけますよ、ホントにも〜。」
「…直に特異点だぜ。イヌっころ、気ィ引き締めな。」
ケツァルコアトルが弛緩したアヌビスの様子を気にかけるように声を掛けた。
ほどなくして一行は特異点に到着した。しかしイシスの姿は見当たらず、確認のため全員で地上に降りる。すると突然地中より、ずぼっ、ずぼっ、と手が現れ一行を取り囲んだ。
「これは…ミイラか!」
《ミイラの兵長》
メシーカ環境のキーユニット
ミイラは乾燥した人体の骸に悪霊が取付き、たとえ手足が捥げようとも魂魄を引き離さない限り活動を辞めず無限に対象を襲うモンスターの一種である。一行が降り立った先を無数のミイラが包囲し、迫ってくる。ミイラは動きこそ緩慢であるが一度掴まれたら二体、三体と後続が対象を掴んで生気を吸い取り、蝕んで行く。重度の傷から回復して日の浅いウズメやミカエルにとっては数が数だけに十分脅威となり得た。一同に緊張が走る。
ーピューゥ…ッ。
突然、音として微かに認識できるその合図で、ミイラ達の動きが止んだ。それはアヌビスの力によるものだった。号令を受けたミイラ達はこぞって地中へと還って行く。その統一された指揮は実に鮮やかであった。
「ふぅん。やるじゃない。折角楽をしようと罠を張ったのに無駄になっちゃった。アンタだったのね…アヌビス。」
イシスは初めからその場に居た様子で、砂の背景の中からじんわりと具現化し、姿を現した。イシスも例に漏れず黒の瘴気を身に纏い、死者の魂魄が彼女の周囲を彷徨っている。
「ミイラはみんなおいらの仲間っスからね。それよりイシス、おいらが判るのかい?」
ミカエル戦を目の当たりにしていないアヌビスにとってはハデスから得た“自我を失った守護者”という前知識があったため、自分を認識できるイシスに安堵した。
「分かるわよぉ、あんた、アタシを嵌めたアメンのイヌのアヌビスでしょ。」
「分かってるなら話が早くていいや。イシス、救世主は何処に行った?とっとと戻ってお前の仕事をしてくれよ。」
アヌビスは手放しでイシスの下へ駆け寄ると、イシスが放つ不穏な雰囲気に気付き、ゾッとする。
《アペプの詛呪》
新環境でアグロタイプに採用される直接ダメージスペル
「ぐっ…。」
アヌビスはイシスの唱えた面妖な呪文によって毒されてしまう。
「あは…あははっ、あははははッ!バカね、アヌビス。戻るわけ無いじゃない。面倒くさい。“アイツ”が何考えてるのか知らないけど興味も無い。アタシはここで適当に一人の時間を満喫するわ。」
イシスの狂気が顔を出した。イシスはやっとつかみ取った暇に羽根を伸ばすような口振りでケラケラと笑いアヌビスを馬鹿にしている。
(だからこいつと戦るのは嫌だったんだ…ヤリづれぇったらありゃしねえ…くそっ。)
「ふぅ、アンタたちを追い返せば、アタシはずっとこのまま。アンタに興味なんてないけど、邪魔をするなら消えてもらうわよ!」
そこからイシスはアヌビスに向け幾多の呪文を浴びせはじめる。疫病、呪い、枯渇、あらゆる攻撃がアヌビスの体力を奪って行く。
「おい、ビスケ、なんで反撃しねぇんだ!やられちまうぞ!」
トールが我慢できず声を張る。
「…へ、へへっ。」
アヌビスは笑ったままイシスの攻撃を受け続ける。
「あら、それで本気?」
「続けて行くわよ!」
「ふふっ、ごめんねぇ〜。」
《ファラオマスクの呪い》
盤面無視の直接ダメージでルクソールを代表するスペル
「ぐぁあああー…ッ!」
アヌビスは窮境にいよいよ膝を付いた。
「もう、何なのよ、アンタ!」
イシスはアヌビスの戦意無くただ自分の攻撃をサンドバッグのように受け続ける様子に苛々していた。かといってアヌビスに降伏する気配はない。
「お…おいらは、オンナにゃ手を出さねえのさ…。」
アヌビスはボロボロになった身体で不敵に笑い、そう言った。
「あら!そう!じゃあ、とっとと消えなさい!」
イシスはムッとして渾身の一撃を放とうと詠唱を始める中、アヌビスは決死の覚悟で懸命に言葉を繋ぐ。
「イシス、お前は無関心なんかじゃねぇ…!傷付くのが怖くて、無関心を装ってるだけだ…。」
「何を言ってるの?意味がわからないわ!ムカつく!」
イシスは思わず詠唱を止め反駁を差す。その様子はイシスの心が透けて見える程、顔を赤らめ明らかに戸惑っていた。
「だってそうだろ…。ルクソールでおいらはお前をずっと見てきたんだ。旅の仲間、お前にも居たろ。素直になりやがれ…!」
イシスはアヌビスの言葉に感化され、過去の思い出に思考を巡らせる。だがそれを途中で辞めると、鬼の形相でアヌビスを睨みながらイシスの手中で魔法陣が完成した。
(へへっ、もう、どうとでもなれや…。)
アヌビスは死を覚悟した。イシスの唱えた呪文は大きく発光し、アヌビスとイシス自身を包んで行く。
「ここは…あの世かな?」
アヌビスが恐る恐る眼を開く。傷ついたはずの身体は痛みが消えてむしろ何処か心地良い。
「バカね、死んでるワケないでしょ。」
イシスは聖母のような眼差しでアヌビスを見下ろしている。イシスが最後に唱えた呪文は癒しのものであった。
イシスはこれまでに数多くの計略や政治に翻弄されてきた。裏切り、嫉妬、猜疑。そんな負の感情に触れる中で繊細な彼女はいつの日か心に蓋をする。心が決して傷付かないように。それが彼女から無関心を生み出した。ずっと孤独に一人、誰にも理解されることもなく拒絶を選択してきたイシスにとって、アヌビスの言葉は何処か優しく、温かみがあり心の琴線に触れた。
「オシリスのヤツ、お前のこと心配してるぜ。あの人、妹のお前が大好きだからさ。」
アヌビスはへへっ、と笑ってそう言うと、バカね、と言ったイシスの頰には一つの雫が伝っていた。イシスはとっくに自分の弱さに気付いていたのかも分からない。他者を信用せず、傷付くことを怖れ、自分では無い他の誰かが手を差し伸べてくれることを待ち続けていたのだ。いつの間にかイシスを取り巻く負のオーラは綺麗に消失していた。
そうしてアヌビスはイシスの心を取り戻すことに成功したのであった。
19.決起
ー。
地脈から溢れ出す大地のパワー。その熱気は照りつける日射し。または噴き上げる突風。トール達は第五の特異点近くに居た。一行がメシーカに上陸してから十四日目のことである。
やっぱりここだったか、ケツァルコアトルは頭を掻きながらうんざりした様子で開口一番そう切り出した。
「この地はメシーカの中でも屈指のいわく付き名所で、あの世とこの世を繋ぐ黄泉への入口になってるって言われてんだ。土地守りの俺たちでも滅多なことが無けりャァ、近づかねェ。トール、お前の友達は一体どんな奴なんだ。」
一行は遥か彼方、地の底を確認するように見下ろす。この脇から勢い良く落ちる滝の底に侵入口はあると言う。自然が作り出した巨大な穴の底からは神のみが分かる微かな線で死者の呼び声がおぞましく聴こえてくる。
「ただの捻くれた野郎さ。」
トールはロキの放つ禍々しい気を確かに感じながら短くそう答えた。
メシーカを巡り、一行に分かったことがひとつある。操られた守護者たちは皆、自身に所縁のある、その者が一番パワーを引き出せる場所に縛られていると言うことだ。操者の意図は相変わらず見えないが、この因果が重大なことであることは明らかであった。
着陸すべくジャンがゆっくりと高度を下げる中、フレイヤは束の間の回想を巡らせる。それは縛られた守護者の浄化についてだった。
フレイヤは冷静にこれまで救った守護者のことを振り返った。整理するとハデスが言った通り、守護者の全員が漏れなく心に闇を抱え、その原因や解決の手段はバラバラであった。
海洋に居たアテナは、仲間を護りたいという一途な想いの裏で他者から認めてもらうことを強く望み、その心の孤独がアテナの身を闇へ落としたがハデスの理解を得ることで心を取り戻した。
草原に居たミカエルは、力を求める余り自らの正義を捨て闇に身を染めたが、ラファエルの圧倒的な信仰の強さを前に自らの過ちを認識する事で心を取り戻した。
山岳に居たスサノオは、自らの大切な者を護り抜く為に力を求めてきたが、修羅の世界に身を置き続けることでいつしか戦いの動機を失ってしまう。それが彼の身に闇を落としたが、決死の覚悟で身を挺したウズメによって思い出し、正気を得ることができた。
砂漠に居たイシスは、塞ぎ込んだ繊細な心を無関心という仮面で偽りつつも、言い知れない孤独と虚無。愛を心の内で渇望しそれが彼女を闇に引きずり込んだが、アヌビスの掛け値無い捨て身の行動によって自らが作り上げた孤独が幻想であったことに気付き、闇を払った。
その救出の全てがどれも奇跡と呼べる賜物だった。ただ倒せば良いという訳では無い、と言ったハデスの言葉が今なら理解できる。ミカエルのケースのように、単純に力を誇示することが結果的に正解だったということはあるだろうが、アテナのケースではミカエルと同じアプローチを取っても決して彼女を救うことは出来なかったであろう。また、操られた守護者の精神状態も様々だった。スサノオのように有無を言わさず襲ってくるような錯乱状態もあれば、イシスのように自らの咎まですら、自覚しているような冷静を保つケースもある。果たしてロキがどんな闇に身を堕とし、どんな精神状態であるのか。叡智に長けるフレイヤを以ってしても、推し量ることは出来ない。
ーああ、ご苦労だった。脱出手段は用意できたぞ。ゲートは依然あのまま、今のところ変わった様子はない。次はロキだな。
アヌビスがハデスと念話で突入前の連絡を取っている。
「そうっス、ええ、ええ。じゃあ、入口着いたんで、また。」
一行は洞窟の入口に到着した。トールには不思議と、これが最後の戦いになる予感があった。無論、神たちが救世主と呼ぶマキナや、イアソン団の依然足跡は掴めていないのだが。そしてその勘は程なくして現実のものとなる。
トールは侵入前に後ろを振り返る。そこには最初フレイヤ、ウズメ、アヌビス、ハデスに自分を加えた五名で始めた旅が、ケツァルコアトルとジャンの協力を得て仲間のほとんどを回収し、いつの間にか大パーティとなっている。各々その場にいる理由は違えど、元にいた世界へ帰る目的は一致している。
よし、とひとつトールは気合を入れた。全員で帰る。目的は変わっていない。必ず、果たす。トール達は決意を胸に、地獄の入口へ入って行った。
20.決戦
ー。
一行が洞窟へ侵入してから数刻。トール達は戦いの渦中に居た。骸が異形な怪物へ姿を変え、襲いかかってくる。闇から出でるその骸は倒しても、また別の魂が輪廻して復活を遂げ、延々と攻撃してくる。その数は暗闇で正確に判断できないものの、百をゆうに超えていると思われた。
ーカカカカカ。ニク、ニクダ。ヨコセ、ニク!
「キリがねぇ!兄貴、先へ行ってくれ!俺たちがこいつを引き付ける!」
アヌビスが救出した守護者達と共に骸を煽動し、トール達を送り出す。この骸を繰り出す元凶がロキであると睨むトールは、すまねえ、と言い残し先へ進んだ。
「またかよ!」
ーグルォオオゥアア!
アヌビス達と別れてから入り組んだ迷路を数百メートル進み、細く崩れかけた天然の橋を通って少し広まった空間に出ると、今度は異形の獣がトール達を取り囲んだ。
「ここは私たちが引き受けましょう。勘違いしないで欲しいのですが、これもデュナミスへと無事に帰るため。貴方は貴方にしかできないことを行なってください。」
今度はラファエルがウズメと共に残ると言い、トール達を送り出した。ウズメが敵を引きつけ、その隙にラファエルが目にも留まらぬ速さで数多の呪文を詠唱し、獣達を片っ端から殲滅して行く。トールは後ろ髪が引かれる想いを抱きながらも、折角の意気を無駄にしない、と思い直しロキの元へと急いだ。
トールの下には、フレイヤとケツァルコアトルが残った。青白く光った松明が入口を飾る空間へ足を踏み入れると、そこにロキは居た。
「遅かったなぁ、トールよ。待ちわびたぞ。」
ロキはやはり冷静で自我を保っていた。ロキの瞳は妖しく光り、生前の原形が分からない無数の魂魄がロキを守るように漂っている。その背後ではトール達が知り得ない未知の魔法陣がいくつも設置されている。どうやら無限に現れる骸や異形の怪物はこの魔法陣によって生成されているらしい。そのからくりは見て取れる様子から、生者の命を魂魄へと転換させ、その魂魄を怪物たちへ入れることによってその活動を延々と循環させるというものであった。正真正銘、悪魔の装置である。
「ロキ、てめぇ、許さねぇぞ!」
トールは起きているおおよその事態を把握し、ロキを睨みつけた。
「はて。何に怒っているのか分からぬぞ、トールよ。俺は俺の楽しいと思うことをやっているだけだ。俺の中の関心事が救世主からこの大地を滅ぼすことに変わっただけさ。」
ロキはさも当たり前のように毅然と自分の考えを言った。
「お前みたいに頭のいい奴は何考えてるか分からねえし、分かりたくもねえ。色んな奴ら待たせてんだ。時間がねえ。行くぜ、ロキ!」
トールは鎚ミョルニルを強く握りしめ、臨戦態勢を取った。そこに突如、怪しい影がひとつ浮かび上がる。
「テスカ!!」
ケツァルコアトルが咄嗟に叫んだ。テスカトリポカだった。
「…。“神柱”を壊していたのはお前たちであったか。ロキよ、そのままの姿ではやや戦況が苦しかろう。お前に力を与えるぞ。」
テスカトリポカが杖を振り、ロキへ光をかざすと、ロキが苦しみ出し、姿を異形へと変身させた。
ーグォァアアアアーッッ!
「な、何ッ!」
その異形の怪物はトール達の背丈を遥かに超え、猛々しく咆哮する。
「テスカ…お前…、なんで…ッ!!」
一連の黒幕がテスカトリポカによるものだったとケツァルコアトルはそこで初めて理解させられた。今まで疑念を抱きつつも心の何処かで友と呼べる、また家族とも思えるテスカトリポカを信じたその想いを木っ端微塵に打ち砕かれる。
「コアトルよ、お前は分かっていないのだ。この先迎える暗黒の未来も、またその結末も。俺はこの大地を守る神、テスカトリポカだ。何に代えてもこの地の未来は、俺が守る!俺は他に用があるのでな。さらばだ。」
テスカトリポカはそう言うと、暗い影を滲ませ立ち消えてしまった。
ーグォァアアアアーッッ!
その巨人はトール達に考える隙すら与えず、力一杯その巨大な腕を振り回す。
「ぐぉおおお…!!」
トールは両腕で防御するも、叩きつけられた絶大な力はトールのそれをゆうに凌駕し、トールの身体は吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまう。トールを呑み込んだその腕はそのまま勢いを止めることなくケツァルコアトルとフレイヤを同様に呑み込み、吹き飛ばす。
「ぐは…っ。」
たった一振りの拳で三人は致命的なダメージを負ってしまった。視界が霞む。
ーっブリシンガメンの慈愛…!
フレイヤは渾身の力で癒しの波動を周囲へ放った。トール達の痺れていた手足の感覚が次第に戻って行く。
息を荒げながらすまねェ、とケツァルコアトルが詫びた。
「どうやらお前たちの仲間を巻き込んじまったのは、俺の友だったみてェだ。本当にすまねェ。俺も全力でこいつを止めるぜ…!」
三人に戦意が漲った。見詰める先に君臨する敵は遥か巨大で、その身を賭しても刺し違えることすら叶わないかも分からない。それでも、引かない。人にはその人生の選択において、負けると分かっていながらも引いてはいけない場面が必ずあり、その選択を誤って逃げ出せば、時に命以上に大切な“何か”を失ってしまうことがある。それは人も神も同じである。引いた先に何が待っていると言うのか。うまく逃げ延びたとして、もたらされるものは逃げたという紛れも無い事実と決して晴れることのない後悔だけなのだ。
「行くぜッ!鏡泉!!」
「ダインスレイフの波動!!」
ケツァルコアトルがトールとの戦いで見せたメシーカ大陸特有の分身呪文を三人にかけ、フレイヤがアスガルド領域に伝わる筋力増強呪文で援護する。
「ロキ。俺はお前の心の闇なんか、分からねえ。俺がお前にしてやれることはただ一つ。全力でお前をぶちのめすことだけだ!」
トールは咆哮した。赤毛を逆立て、赤い目を真紅に染める。トールが拳に力を入れて英気を蓄えると、辺りに地鳴りが轟き、洞窟の天井からパラパラと土が落ちてくる。
「 ミョルニルよッ!力を解き放て!行くぞッ!うぉぉおおお!!」
トールがそう咆哮すると、ミョルニルが強烈に発光し、内から出た閃光の雷がトールの全身を覆った。それは鋼鉄よりも分厚く鋭利で、対峙する者へ絶望と浄化を与える神の怒り。ケツァルコアトルはトールの様子を見ながら、あの時俺にぶつけようとしたものはこれか、と思った。
三人は一斉に巨人へ立ち向かった。トールが最前線で自分の身の丈を何倍にも大きくした鎚ミョルニルを力一杯かなぐり回し、巨人の骨を粉砕すると、ケツァルコアトルが追い討ちに弱ったその腕や脚を鋭利な一閃でもぎ取って行く。巨人が怒り狂い、無差別に暴れ回ればフレイヤが決死の回復で前線二人を維持させる。
そうして一進一退の攻防を幾度となく繰り返した末、闘いは終わりを迎えた。
「トールよ…。お前の…勝ちだ。俺を斬れ。」
崩れた肉塊の中から顔を覗かせたロキが息も絶え絶えに、トールへそう告げた。トールは肩で精一杯息をしながらロキを見下ろす。
「…ロキ。お前のやったことは、許せねえ。だがなー」
トールはロキの体を持ち、力一杯引きずり上げ、巨人の身体からロキを引き離した。
「償い、っつうもんは生きてするもんだ。死んだらできねえだろ。ほら、帰るぞ。」
たった今まで命のやり取りをしたロキへトールはそう言って笑って見せた。この男、なんと懐が深いことか。
「ふ…ふはは。後悔するぞ、トールよ。」
ロキはトールへ込み上げる殺意を覚えた。この男を自分の手で殺してやりたい、ロキは心の底から湧き出る感情の一杯で、そう思った。興の対象が変わったロキから黒のオーラが浄化されて行く。
そうしてトール達は、ロキの心を取り戻したのであった。
ex.帰還
ー。
ー大変だ、ゲートの様子が急におかしくなりだした。今にも門が閉じそうだぞ!
時はメシーカ上陸から二十日目の朝。ロキ戦によって仲間の多くが傷付き、これ以上の捜索は危険と判断したフレイヤの進言によって、一行は一度ハデスらと合流しようと来た道を引き返していた。そんな折、ハデスから突然の悪い報せである。
ロキの救出から五日ほど道を戻ったが、ここから寄り道せず最短を取っても、如何に神速を超えるジャンの脚を以ってしても三日はかかる道のりだった。一同に帰れなくなる、という頭の片隅に追いやって居た恐怖が現実のものとなって今更込み上げて来た。
「…船乗のみんなを巻き込むわけには行かねぇから、これ以上は無理だ、って判断したら、旦那たちだけで帰ってくれ。」
アヌビスは気丈に振る舞いながら落胆を声色に出さないよう、努めて明るくハデスにそう告げた。
ーしかし…っ。……ギリギリまで待つ。また連絡する。
ハデスもそれ以上返す言葉が見つからない。他の守護者を救出するという大義を成したトール達にどうにかしろとも言えず、船乗達の前で必ず待つとも、言えなかったのだ。
現実は無情。空間転移の能力を持たないトール達に為す術は無いものと思われた。そんな中、ラファエルが平然とした様子で切り出した。
「このまま最短の道を進んでください。」
一行にラファエルが意図することなど知る由は無く、アヌビスが疑問をぶつける。
「ラファエルさん、今の話聞いてなかったのかい。俺たちはもう、帰れないんだぜ。」
ラファエルはそんなアヌビスの言葉を歯牙にも掛けず話を続けた。
「種明かしをするつもりは毛頭ありませんが、どうして私が一人、この大陸の奥地へ貴方がたよりも先に着けたと思います。大丈夫です、三日で着けるなら、間に合います。」
ラファエルの一切迷いがないその様子に一同は困惑するが、洞窟内で一度助けられたトールはラファエルを信じようと言った。
「どんなからくり使うのかは分からねえけど、他に策があるわけでもない。ラファエルの言う通りにしてみよう。」
「トール、貴方との決着は、いずれ。」
ラファエルはすました顔でそう言った。
フレイヤがジャンに合図を送ると、ジャンは全速力で空を駆けていく。
ー。
(くっ、ゲートが持ちそうにない。最早ここまでか…!)
アヌビスとの念話を終えて数刻した頃、ハデスはゲートを見据えながら覚悟を決めた。
「全員、船に乗れ!出発するぞ!」
(すまぬ、みんな。必ず、必ずやまた、迎えに来るぞ…!)
船乗達が大急ぎで出発の支度をすると、船はゲート目掛け海にその身を投げた。
「待ってくれ!」
大陸へ背を向けたハデスの後方から声がする。まさかな、と思い振り向くと、そこにはトール達が居た。
「俺たちも乗る!乗せてくれ。」
急いでトール達は船に乗ると、ケツァルコアトルは海上に独り佇み、トール達を見詰めていた。
「ウィンド!!」
トールがケツァルコアトルに向かって叫ぶ。
「トール!お前たちとの旅、楽しかったぜ!あばよ!!」
トールはケツァルコアトルの心意気に胸を打たれた。今生の別れになるであろうことを二人は心のどこかで分かっていたが、しみったれた別れの挨拶など二人には似合わない。
「いつかまた会おう!ウィンド、元気でな!」
次第にケツァルコアトルの姿が小さくなる。
船は全速力で駆け込むようにゲートへぶつかった。一行は無事、デュナミスへと続く道に間に合った。
そこから先、どうやって各々が自分たちの領域へ帰ったのかは省くことにしよう。
そうしてトールの“気ままな散歩”は幕を閉じることとなる。
トール達の背後には雄大な大地が広がっている。
その地の名は、メシーカ。幽玄なる魔力と生命の鼓動に溢れた、あらゆる自然と文化を内包する魅惑の土地であるー。
End
あとがき
改めまして、YOSHIと申します。
この度はメシーカ アナザーストーリーを読んでいただき、ありがとうございました。先ずは心より御礼申し上げます。
このストーリーはデュエルエクスマキナ(DXM)を題材に、私の膨らませた妄想を思いのままキャラや世界観へ反映させ、描きました。
まだ私が幼い頃、HOBBY JAPANより刊行された「デュエリスト ジャパン」にマジックザギャザリング(MtG)のバックストーリーを読み物にした定期コラムがあり、私は毎月それを読むのが楽しみでした。マジックの世界は幾つもの世界が隣接し、主人公はその多元宇宙と呼ばれるあらゆる世界を旅して回るのです。今回は幼い頃にそのコラムやマジックのカード中にあるフレーバーテキストを読んでワクワクした気持ちを思い出しながら書きました。
無い頭をひねり、オフ時間の大半を注ぎ込んで約1ヶ月の工程で作った今作は、ひとつの話が大体1500文字、読む時間にして大体3分程度で読めることを意識しています。(最終的には全21話、約36000文字、1時間半ほどの読み物となっています。)原稿用紙にすると90枚、ろくにゲームもせず書いていたので我ながら熱量を持って取り組んだと思います。
このストーリーを生み出すきっかけはすごくシンプルで、アスガルドのトールがゲーム中に攻撃を受けると喋る「タダではやられんぞ!」、それを物語の中で文章に起こしたい!その一心からです。実際には1部で私個人のカタルシス()は得られたのですが、あまりにストーリーが中途半端なため、これは最後まで書くしか無いか…、と謎の使命感を持って書き上げています。
やってみて思ったのは、真っ先に、大変なことが多かったです。(笑)どこまでできたか分かりませんが、世界観を読者に共有してほしいために背景を掘り下げることや、会話と情景の繋ぎ部分がスムーズに行かないことなど、うまく行かなかったことは沢山ありました。書くことを仕事にしている人には頭が下がる想いです。(極め付けはジャンというオリジナルキャラを苦し紛れに創作してしまい、申し訳ありませんでした…!)
それでも、やって良かったと思っています。好きなこと、やりたいことを、余計な先入観や苦手意識は置いておいて、とりあえずやってみる。それを実践しああ、自由だな。としみじみ思いました。
ちなみに物語を書く時はいつもその場面場面に合った音楽を裏で流しながら書きました。
【20.決戦】はこれで最後!と思いつつFF6の「決戦」を聴きながら。(FF6のBGMは神)
【FF6】24. The Decisive Battle - 決戦 High Quality Soundtrack 高音質 作業用BGM サントラ - YouTube
【ex.帰還】は別れの哀愁を漂わせるべく、Alicia Keysの「If I Ain’t Got You」を聴きながら。
Alicia Keys - If I Ain't Got You - YouTube
少し話は逸れますが、カードゲームはそのジャンル性から、特に論理的思考や計算が聞き手に説得性を持って受け取られるものだし、発信する側も正しいことを発言することに捉われがちです(少なくとも私はそういう部分があります)。でもこれを書いてる最中に思いました。もっと、自由でいいんだな、って。万人が正しいと思えることを当たり前のように発信するのではなく、自分はこう思ってるんだけどみんなはどう?という自分の中にある曖昧な概念や疑問を発信してこそ、自由と発展があるのだと思います。
最後になりましたが、私が生んだこの作品に読者の方が少しでも面白みを感じていただいたり、前向きな気持ちになれるようなきっかけとなれれば、この上なく嬉しく思います。
また、日頃楽しませてもらっているDXMには、今回このような謎の衝動を掻き立ててもらい、(クオリティは別として)最後までやり遂げることができて、感謝しております。
稚拙かつ、難解な文章が多かったと思います。ここまで読んでくださった全ての方に、感謝します。
また、ゲーム内、SNS(@YOSHI_raface)にて。今後とも、宜しくお願い致します。
ありがとうございました。
YOSHI