YOSHIのブログ

現在デュエルエクスマキナプレイ中。RPG/TCG系のブログ更新予定

【非公式】メシーカ アナザーストーリー 第3部

これは主の頭の中の妄想を膨らませた非公式のメシーカ。アナザーストーリーであるー。

 

※全4部構成、次回最終予定です。

 

目次

 

11.核心

ー。

幽玄なる壮大な大地、メシーカ。そこは魔力と活力で溢れ、生あるこの世界の全てに力を与えてくれる魅惑の土地。朝靄の戦いから数刻。昇る朝日が眩しくこの世界のはじまりを知らせている。森の奥からは小動物の声が聞こえ、木や土や、水の精が活発になる。どうやらこの近辺を覆っていた禍々しくも急き立てられたような異様な雰囲気は浄化されたようである。

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一行はケツァルコアトルを交え、今後の方針を話していた。激戦の果てにハデスとアテナは重篤な傷を負ったが、人智の及ばぬ持ち前の神力とフレイヤの加護によってハデスは回復、アテナは未だ目を覚まさないが闇のオーラは立ち消え心身に別状はないと思われた。

「まずはじめに、お前たちのこと洗いざらい話してもらおうか。事によっちゃァ、俺はお前たちをこの場で斬り捨てなきゃならねェ。」

この地を守る風の神、ケツァルコアトルの目が爛々とあやしく光っている。纏うオーラは一分の隙もなく、この場にいる全員を呑み込む勢いだ。

「では、私から説明しよう。」

ハデスが口火を切った。フレイヤがハデスの心身を慮るがハデスはそれを、いい、と断る。先程まで虚空を彷徨ったのだ。実際のところハデスの傷はその場に居座るだけで気を持っていかれそうな満身創痍の状態であった。それでもハデスがその役を買ったのは、ハデスが先の戦いで到達した解がこの先の皆に必要だと分かっていたからである。

「私の名はハデスと言う。この場に居る者は皆、貴君と同じく神である。この世界とは異なる次元でそれぞれが役目を持ち、その地に恩恵と秩序を与えている。貴君が今朝方対峙していた彼の女神も我々と同じ世界の者で、我々の仲間だ。」

ハデスは慎重に言葉を選びながら、異界の巨神に話し始める。そこまで聞いてケツァルコアトルは早計に目を見開いたが、正面に居座ったトールが目を配りまあ、待てよ。と合図することで収まった。

「時は我々の世界の時間軸で百六十日程前になる。我々の世界に突如この地へ繋がる門が開かれた。我々は未知の脅威に対し調査隊を派遣したが、待てども、待てども還らない。そこで我々が仲間の消息を確認するため、この地へ赴いたのが昨日のこと。その後の我々の動向については貴君も知る通りである。」

ケツァルコアトルは丸太のように太い両腕を組み、話を聞いている。まるで巨木がそこに座っているかのようだ。

「私がアテナとの戦いで得た結論を話そう。一つ。アテナを始め、この地に赴いた調査隊は何者かによって拘束、または霊的な力の強い者はマインドコントロールを受け自我を失っている。もう一つ。そのマインドコントロールを解く鍵は、“心の闇”だ。」

「洗脳だって?この世界の事は俺が一番よく知ってる。そんなことする奴ァ、一人も…。…ッ!」

ハデスが話を切り替え持論を展開すると、不当な見方に納得のいかない様子でケツァルコアトルはつい話を割ってしまったが、途中で何か気付いたように沈黙した。

「…何か思い当たる節があるようですな。」 

ハデスは話の腰を折られたことを気にせず、落ち着いた口調で切り返す。ケツァルコアトルは深く思考しながら自分の頭の中を整理するように、この世界のことを話し始めた。

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「この地、メシーカにはテスカトリポカっつう神がいる。俺が風でアイツが土。俺たちは二人で一対なんだ。俺たちの時間軸とお前たちのそれが一緒か分からねェが、大分前だよ。ある日を境にテスカはおかしくなっちまって、姿を消しちまったんだ。そっから徐々にこの世界の空気が乱れてきてな…。獣は狂って人を襲い始め、草木は命を縮めた。俺は日増しに濃くなる異変の影で、“高濃度のマナ帯域”をいくつか見つけた。モヤがかかったようなジメジメしたオーラだ。その特異点にコトの原因があると俺は踏んで、手始めに来た海岸で出食わしたのが昨日の女さ。」

…なるほど、だから贄、か。聡い者には話の全容が見え始めている。

「こりゃあーそのテスカなんとか、って奴が裏で糸引いてるに違いないっすねえ!」

アヌビスはいつもの調子で空気を読まず神経質なところを突っ込む。この男、聡さは群を抜いているが単に好奇心が強いのか、はたまた自分の胆を試しているのか。フレイヤにはアヌビスの意図が推し量りかね、堪らず溜息を吐いた。

「テスカはそんなんじゃねェ!」

案の定、ケツァルコアトルは拳を木の卓に叩きつけ怒りを露わにした。

「ひええ、怖っ!悪かったよ。」

アヌビスにフレイヤの睨むような深い意図はない。いつだって分かっていながらも、掻き乱したいだけなのである。そこから拾える他の者の傾向や性格はどこまでいっても副産物に過ぎない。

「大体見えて来ましたわね。ハデスさん、話を戻して、洗脳された者を解放する鍵とやらについて、もう少し詳しく教えていただけますか。」

フレイヤが仕切り直した。

「うむ。うまく言える自信が無いのだが…まあ聞いてくれ。アテナは自らを戦地に置く事で自身の大切な者を護ることを選んでいる。私はそんな彼女の優しさや慈しみが戦では弱さになると思い、認めることをしなかった。信じ切ることができなかった。それが彼女の心に闇を落とし、結果引きずりこまれたのだと思う。今、彼女が戻って来れたのは皆が想像する通りだ。私はアテナに対する認識を改めた。」

ハデスは自分のことを話すのが苦手な様子で、俯向きながら控えめにそう話した。

洗脳された者の心を拾う。それは、途方もない難題であった。

 

 

 

12.知己

ー。

ハデスの口から出た予想しなかった事態。ハデスがアテナを救い出せたのは奇跡と言っていい。

「ってことは、イシスや他の神さん達も何らかの心の闇に身を落としてる、ってことですかい。これは思ったより遥かに難儀そうだなあ。」
アヌビスはイシスの顔を思い浮かべ辟易する。

「左様。ただ倒せば良いというわけではない。闇に囚われた者が内に秘めた心の引け目や痛み、それを理解してやらねば、魂は縛られ続けるだろう。」

ハデスが一同の心中を推し量るような面持ちで話すと、皆自領の神に思いを馳せ、果たして救い出すことができるのか、と沈黙する。

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「関係ねえよ。」

トールに迷いはなかった。

「ロキが何考えてようが関係ねえ。この世界に迷惑かけてる、ってんならぶっ飛ばす。そんで縄つけてでも連れて帰るだけだ。」

兄貴ぃ、とアヌビスは拍子抜けした。

「兄貴、今の話聞いてました?」

「ハッハッハッハ!トール、お前ェ、そうだよな!俺がお前でも同じこと考えるぜ。」

ケツァルコアトルが腹を抱えて笑っている。無論ハデスの言う通り、対象の心の闇を見つけ、払拭してやらなければ救えないのは事実であったが、会ってみないことには話は何も進まないのだ。

「はんっ、まだお前たちのこと完全に信用した訳じゃねェが…今朝の一件からこの辺の生き物が息を吹き返したのは俺も解ってる。トールとお前たちを信じることにしよう。俺も協力するぜ。」

ケツァルコアトルは力強くそう言った。

「本当か?ウィンド、ありがてえ。恩に着るよ。」

トールはケツァルコアトルの事をウィンド、と呼ぶことにしたようだ。トールは気にいると何の脈絡もなく、本人に承諾を得ないまま勝手にあだ名で呼び出す。ケツァルコアトルは自分に付けられたあだ名をさして気にする様子もなく、二人でガッハ、ガッハと笑い合っている。そんな二人の様子を見ているとなんだか小難しく考えているのが馬鹿らしく思えてくるから不思議だ。フレイヤはそれを見ながらトールがこの世に二人と居ない百年の知己を得たのだと思った。

「してお前たち、目的地までどうやって行くつもりだ。」

ケツァルコアトルが話を切り替え遠征の手段について聞いた。如何に神の強大な力を以ってしても、生身でこの世界を渡り歩くのは広すぎるとケツァルコアトルは指摘する。

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「陸路は勧めねェ、効率が悪い。この先目的地まではジャングルや地下道、山や川を幾つも越えなきゃなんねェ。天然の要塞で異変に侵された獣どもがウジャウジャいる中、道無き道を進むことになる。そうしてる間に異変がこの世界を食っちまうかも分からねェ。」

しかしトール達の中にはマキナのような空間転移の力を持ち合わせる者がいない。一行には陸路を選ぶ他に、選択の余地はないと思われた。

「そこで提案なんだが、俺の風の力をお前たちに貸してやる。そうしたらお前たちは空を飛んで最短距離で目的地へ行くことが可能だ。時間はそうだな…特異点の放つオーラの距離から考えて、陽が両手の数ほど登る頃には目的地を全て周れるだろう。でも空の旅には陸路とは別の問題がある。ワイバーンだ。」

ワイバーンは竜の亜種でその眷属とされる飛竜の総称である。大型で気性が荒く、鎌のように太く鋭い牙とかぎ爪で一度捕捉した獲物を執拗に追い回して離さない。竜のように火を吐く種も中には居るらしい。ケツァルコアトル曰く、この世界で竜は悪の象徴とされ、竜にまつわる呪われた伝説が存在し、この世界の歴史は神々と竜の戦いであるということだった。トールはケツァルコアトルの話を聞きながらこの世界の竜を自分たちにおける巨人族のようなものと認識した。

「この先、空はワイバーンの庭になってる。最近ワイバーンの数が急に増えてよ。これも異変の影響だ。俺一人なら奴等をいかようにも振り切れるが流石に五人、十人に力を振り分け大所帯で移動したら戦闘は避けられねェだろう。ワイバーンは個体一匹一匹は敵わねェ相手じゃねえが、何十匹と囲まれたらいくらお前たちでも全滅だって有り得るだろうよ。」

トールと五分に渡り合った屈強な男がそう言うのだ。相当危険な道であることが容易に想像できる。トール達はここへ来る道中に遭遇したスキュラの戦魚の大群を思い返した。空は海上よりも身体の自由が利かないだろう。

「さァ、陸か、空か。お前達で選べ。」

ケツァルコアトルは一頻り説明を終えるとトール達の覚悟を問うように迫った。

 

 

 

13.決断

ー。

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一行はケツァルコアトルの問いに対し思慮していた。空を選べばその危険の対価に何十、何百倍も時間を短縮できるだろう。逆に陸路を選べば身の危険は大幅に減るだろうが当ての無い膨大な時間を掛けることとなる。この大地における異変が刻々と変化し、もはや守護する立場のケツァルコアトルにも全てを掌握できていないことは明らかである。加えて自分達は異界者。どんなところで足元を掬われ命が危険に晒されるかも分からない。しかしワイバーンの脅威は無視するにはあまりにも強大過ぎる。全滅しては意味がない。どちらを取っても正解とも不正解とも言い難かった。

「空だ。俺たちは空を行こう。」

アヌビスらの目まぐるしい逡巡は時間にして一秒か二秒。各自結論を出せない中、またしてもトールは即断即決そう言い切った。その表情から迷いなど微塵も感じない。

「兄貴、また念のため確認しますが風の旦那の話は聞いた上でそう言ったんですよね?」

トールの答えの速さにアヌビスが警戒して確認する。

「当たり前だろ!これはもう、俺たちだけの問題じゃなくなってる。早く行った方がいい。元より陸を行く他なかった俺たちにウィンドは力貸してくれる、っつってんだ。断る理由は作らねえ。」

断る理由は作らない、それはトールらしい答えだった。ケツァルコアトルはこの大地を守る役目を持つ、ある意味この中で誰よりもこの問題の当事者である。陸路は勧めない、と言ったのはささやかな感情の漏れであった。自身が護るべき大地が刻一刻とおかしくなっていくのを目の当たりにしながら、トール達に選択の余地を与えてくれたのである。それはケツァルコアトルの温情だった。保身を考える者が多い中、トールは小難しく考えずとも直感でそういう決断ができる。受けた情や礼があれば、自らのリスクなど気にしないからだ。

「私も空行きを支持する。無論リスクは無視できんが、どうやら俺たちには安穏と時間をかけても居られんらしい。」

ハデスがトールの意見に賛同しながら一方を指した。ハデスの向けた指の先には自分達がこの世界へ渡って来た次元のゲートがある。空間の中にぽっかり穴が空いたように大きく開いたその門は来た時と様子が異なり、漆黒であったはずの円は光を帯び、中心へ向けて渦巻くようにエネルギーが収束している。

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「な…っ。ゲートが…!」

何が原因でそうなったのか、そしてその事象が起こしうる結果を知る由は無かったが、恒久と思われたものにも変化がある。それは一行に自分達の世界へ帰れなくなることを想起させた。船乗達がざわざわと騒ぎ始める。

事態が事態である。アテナを保護し、問題の原因や他の調査隊の処遇もおおよそ予測がつく。ここで引き返してもトール達は当初与えられた任務を十分に全うしたと言える。だがハデスはトールの言葉を待たずに言った。

「行くのだろう、トールよ。今更止めはしない。皆を救い、全員で必ず帰ろう!」

共に戦い死線を越え、生まれた信頼がハデスを変えた。トールはハデスの意気を受け取り力強く頷く。それを見てアヌビスらもいよいよ心を決めたようだ。全体の士気が上がる中、そこでフレイヤが意外な提案を持ち出した。

「ジャンに目的地まで運んでもらいましょう。」

それは一行を救う奇策であった。

 

 

 

14.奇策

ー。

猫に連れて行ってもらおう。士気が上がり火照った空気の中フレイヤが意外な言葉で周囲の意表をつく。

ジャンとは、フレイヤが帯同している猫の名前である。叡智に長け思慮深いフレイヤがこの状況で冗談を言うわけがない。一同は誰一人茶化すことなくフレイヤの話に耳を傾けた。フレイヤは説くより見た方が早いと言わんばかりに一つ呪文を唱えると、今しがたフレイヤの胸元に包まれていた小さな猫がむくむくと大きく成長し、猛々しい姿に変貌した。背丈は並の帆船に迫り、巨漢が自慢のトールもジャンの腕にしがみ付けそうである。それを見て一同に大きな衝撃が走った。

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ケツァルコアトルさん、この子の大きさでも風の力を付与できるかしら。」

ショックで開いた口が塞がらないケツァルコアトルは戸惑いながらもやや遅れて問題ない、と返事をする。それを聞いてフレイヤは微笑むと、ジャンに一言ごめんね、と言って計画を話した。

「この子はただの猫ではありません。私の加護を受けた聖獣です。ジャンは光彩を利用した変態能力を持っていて、透明になれます。皆さんはこの子の毛の中に身を埋めて行けば、ワイバーンに気付かれることなく目的地まできっと行けますわ。」

フレイヤはそう言うとジャンに合図を送り、今度は透明にさせて見せた。ジャンの体が滲み出し、次第にゆっくりと背景に溶け込んで行く。これならば接触する程の超至近距離でなければまず分からないだろう。ウズメが確認のため近寄って手を前にかざすとふわっとした毛に触れた。

「すごい…。」

大胆な計画であった。しかしこれはフレイヤの策である。移動速度は神のそれをゆうに超え、ケツァルコアトルの力も分散させずに済む。効力の持続時間、解除条件、どれを聞いても目立った問題は浮かばない。メリット尽くしなのである。これで行こう、全員の意見がまとまるまで時間はかからなかった。

「おっさんは船のみんなとここに残ってくれ。救出は俺たちだけで行く。」

トールははじめからそう決めていた様子でハデスにそう言った。アヌビスらもその意見に賛同する。

「旦那、まだ立ってるのも辛いでしょーから、アテナさんと一緒に待っててくださいよ。ゲートのことも気になりますしね。何かあったら、念話で教えてください。」

念話とは霊的な力の高い一部の神に備わる能力で、物理的に離れた相手の頭の中へ直接語りかけることができる。ハデスは悪びれながらも、この身体で行っては返って足手まといになるやもしれん、と思い直し、トール達の意思を承諾した。

「何かあったら知らせる。お前達が戻ってくるまでに私は帰りの手段をどうにか用意しよう。武運を。」

ケツァルコアトルがジャンに風の力を施す。五人はジャンの体に乗り毛の中に身を埋めると、ハデスの視界から見えなくなった。

「じゃあ、行ってくるぜ!」

ジャンのぎゃう、という声でトール達は陸からぐんぐん離れる。羽も生えていないのに奇妙な感覚だった。息つく暇もなくあっという間に木々を飛越し、ハデスの姿が見えなくなると、トール達の視界いっぱいにメシーカの自然が広がった。

「す、すげえ…。」
この世界は美しかった。西日がきらきらと輝いて眩しい。

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「さァ、一気に行こう、先ずはここから一番近い丘陵地帯だ!」

ケツァルコアトルが号令し、フレイヤが合図を送ると、おおよそ考えられない凄まじい速度でジャンは走りだした。

これで良かったのだろうか、一行を送り出したハデスは答えのない思考に捉われそうになりながら、今の自身に出来る最良を尽くそう、と思い直した。野営の準備を指示する中、船乗の一人がハデスに駆け寄る。

アテナが目覚めたという報せであった。

 

 

 

15.仲間

ー。

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「ここは…。」

アテナがふと見上げた先には吸い込まれるような深い青と宝石を散りばめたように輝く星々が覆っている。美しい。それは果てない夢の続きを見ているようだった。この空がこの世のあらゆる咎を赦し包み込んでくれるようだ、アテナはそう思いながら目覚めた。

「目が覚めたか。」

ハデスが彼女の下で優しく声をかけると、アテナは全てを悟り、涙で顔面をくしゃくしゃにした。

「申し訳ございません。私…私…。」

自責、後悔、感謝、そして安堵。込み上がる想いが溢れそれ以上言葉が出てこない。

「良いのだ。今はゆっくりと休みなさい。然るべき時に、また立ち上がれるように。」

それだけ言うとハデスはアテナの下を去った。アテナは自身の弱さを痛感し、また庇護されていることに感謝しながら、強くなりたい、何度も噛み締めるようにそう思った。

一方、勢い良く飛び出したトール達は星散る夜空を背に目的地へ向け猛烈な速度で進行を続けていた。ジャンの夜に冴える発達した目と、比較的、日中活動するワイバーンの活動周期から、夜に歩を進めた方がより危険を回避し、効率よく先へ進めると判断してのことだった。ジャンはトール達を背に乗せ、宇宙のように広がる空を閃光の如く駆け抜けて行く。高度があるため酸素が薄く、常人であればとっくに意識を失っているところだが、そこは流石に神である。一同地上となんら変わらぬ様子で飄々としている。

「うひゃあ、外に頭出したら風に首持ってかれそうでしたよ。滅茶苦茶速いっすね、このネコ!」

アヌビスがジャンに畏敬の念を抱いている。勿論ジャンは万能ではない。フレイヤ曰く、太陽でも、月でも構わないが、媒介となる光が雲で陰るなどして失うと透明能力は効果を保持できないこと。また、ジャンは酷く臆病であるため戦力の期待はおろか、戦闘になった際はジャンを傷つけないよう細心の注意が必要であるとのことだった。

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ふと、夜空に照らされたウズメの顔がフレイヤに映る。ウズメは宙に浮かぶ星空を見上げながら黄昏に何か思い耽る様子だった。

「不安、ですか?」

フレイヤはウズメの心中を察して声を掛ける。

「あはは、参りました。フレイヤ様は何でも御見通しですね。」

ウズメははにかんで舌を少し出しながら微笑し、乱した心を落ち着かせるように自分の頭を叩いてそう答えた。

「私、スサノオ様を救える自信がないんです。私はトール様のように強くもないし、フレイヤ様のような機知も有りません。第一スサノオ様が何を考えてイズモ領を飛び出して行ったのかさえ、よく分からないんです。こんな私がスサノオ様の心を拾えるのかな、って。」

ウズメは余裕がないのか、或いはフレイヤに気を許したのか分からない。いつもと違った少し崩れた口調で胸の内をフレイヤに話した。皆口に出さずとも、似たような感情を抱いているに違いなかった。

「ウズメさんは謙遜しすぎですわ。」

フレイヤは何の含みも持たせず、手放しで思うことを言った。

「私もあの悪童の化身のようなロキの心など解りませんし、解りたくも有りません。もし救えなければそれで良いと思っています。開き直ってる分、私は質が悪いですね。ふふ、それでも…何とかなるような気がしています。私にはあなたのように優しく他を思いやれる方や、トールのような考え無しの無鉄砲、それでも周りから愛されるような“仲間”が居ますから。スサノオさんも、他の守護者も、皆私たちの仲間ですわ。自分でどうにもならなかった時は、仲間に全て委ねてしまいなさい。少なからず、それを厭う者はこの場に居ません。」

フレイヤ様。ありがとうござい…ます…!」

フレイヤの微笑みがウズメの心に優しく染み渡る。自分一人で戦ってるんじゃない、それは脆く崩れかけたウズメの心にとって、一筋の光明となった。自分に何ができるか、何もできないかも知れないけど、せめて前を向いていよう、ウズメはそう決心し、瞳を閉じた。

ジャンが割く空気の轟音をよそに神々は思い思いの時を過ごす。

「ロキ、待ってろよ。」

トールは夜空を見上げながらこの旅の終わりを微かに想像し、気を引き締めるのであった。

 

To be continued..