DXM 報酬減に思うこと
9.7アリーナ実装に伴い施行されたデイリーミッションとログインボーナスの報酬減はDXMをプレイされて居る方であればもうお気付きのことと思います。
いい話は取り上げてネガ話はスルーなんて、私はこのゲームに熱量こそあれど運営の回し者では無いし、そもそも扱う内容はプレイヤーとして知っておいた方が良い知識だと思うので、今回はこれらの施行に対して実態の把握と、それに対する個人の所感を述べさせていただこうと思います。
運営よ、このチラ裏ブログを公式チャンネルで展開した事を今更悔いるが良い( ^ω^ )
〈メニュー〉
実態の把握
まずはじめに報酬の新旧差分を明確にしましょう。結果から入り、エビデンス(根拠資料)と計算内訳・詳細を残します。
※今回テーマの元となる大切な数字です。私が計算間違い、エビデンス誤りをしている可能性があります。そのためご自身でも根拠数字の算出はされる事をお勧めします。
【結果】
算出条件:
・1ヶ月(30日)試算
・召喚チケットは100コインへ換算
旧:4780コイン
新:1650コイン+アリーナチケット15
差分:▲3130コイン、+アリーナチケット15
【エビデンス】
・ログインボーナス(旧→新)
旧
新
旧:10日420コイン→30日1260コイン
新: 〃 150コイン+5Aチケ→ 〃 450コイン+15Aチケ
差分:▲810コイン、+15アリーナチケット
・デイリーミッション(旧→新)
旧・平日
内訳)
コロシアム2回参加@20コイン
コロシアム5勝@50コイン
●●勢力で1勝@20コイン
●●勢力で3勝@30コイン
旧・土日
内訳)
コロシアム3回参加@40コイン
コロシアム1勝@20コイン
コロシアム5勝@100コイン
新
内訳)
ランクマッチ1勝@10コイン
ランクマッチ3勝@30コイン
旧:平日120コイン、土日160コイン
7日820コイン→30日3520コイン
※端数2日は平日分として加算
新:1日40コイン→30日1200コイン
差分:▲2320コイン
個人の所感
◆露骨すぎ乙
新旧報酬の差分を出したところでここからは個人の所感を述べさせていただきます。
結果を簡潔にすると3000コイン失った代わりに15アリーナ参加権を得た、という事ですが、課金通貨50ジェムでアリーナ入場できる事を考えると、その単純比だけで▲2500コインが分かりやすい明確な数字としてプレイヤーへ突き付けられている訳です。
(その新旧差分を埋めるためのアリーナ勝率は取り上げずとも進行できるため詳細を省きます。おおよそ、アリーナでの勝ち数アベレージ8ないし9勝以上で旧報酬をペイに。勝率で言うと75-85%辺りらしいです。個人では算出して居ません。)
色々と個人の見解の変遷はあったのですが、現状落ち着いたところを話すと、多くの方の意見同様に、やはり問題視すべき事由と考えています。
まず前提として個人の属性を話すと、私はマジックザギャザリングに代表されるアナログTCGの経験者です。アナログTCGではゲームを始めるために先ず自分が消費者となり、投資する事でゲームを始められます。そのため、自己投資が無くともゲームを十二分に堪能できるデジタルTCGからカードゲームを始めた方との消費に対する価値観はかなり乖離があるはずであって、既にDXMにも数万単位の投資を行なっている身としては、関心事が長期運営(つまりディベロッパーであるDeNAがしっかりと収益を上げること)してくれることに重点が行きます。
しかしながら、それは1ユーザーの意識であって、大局的には無課金の方が多くいらっしゃるでしょう。私はSNSで何度かつぶやいていますが、「資産を配りすぎて運営できるのか不安」、今でもそう思っています。でもそれは好きなものに投資を厭わず、かつ優先度を上げて実行できる課金者の見解です。類似アプリが腐る程ある昨今では多くの人にとって収益状況なんて関係は無く、ユーザー目線ではこれまでの配り続けた報酬状況がどこまでいってもスタンダードであるということは現在のディベロッパーへ突き付けられる残酷な事実です。うまく誤魔化そうとしたのか、ここまでの減は露骨過ぎだろ乙太郎。
◆単にアリーナやれと言ってもね。
今回のコトの発端にアリーナの登場がある訳ですが、対価を得るために膨大な稼働がかかることになったということは欠かせない危惧すべき事由でしょう。これは直接的な勝ち数による報酬減の一方で、間接的に時間拘束によるユーザーのヘイト増加と複数アプリを掛け持ちしているライトユーザーのふるい落としに繋がっています。アリーナはどこまでいってもゲームに色を付ける複合的コンテンツであって、メーンとするランクマッチには個人資産が必要であり、資産獲得フローが拘束時間的にとてつもない長さになったと言うのは間違いなくマイナス事由です。
◆だったら一方だけ生かしてよ
《直接的な報酬減》と《間接的な稼働拘束》の二重苦を強いられているのが実態としてあるのかな、と個人は考えていて、ここからはどうなればマシなのよ?という軸で話を展開します。運営に物申す!なんて強気なイケメンスタイルは30オーバーオジサンの私には取れません。モンスターペアレントならぬモンスターユーザーになる気も毛頭無くて、どこまで行ってもこれはチラ裏。このゲームとプレイする方がいい方に進めばいいな、とささやかながらに思っています。
(P小話) 9/7(木)のアップデート(デュエルアリーナ、カード能力アップデート等)の感想を、Twitterやお送りいただいたご意見で拝見しています。引き続き、ご意見踏まえアップデート、改善していきたいと思います。よろしくお願いします! #DXM #デュエルエクスマキナ
— 田中P@DXM (@TanakaP_DXM) 2017年9月8日
ほら、Pもこう言ってるしね?
基本的な考え方として、ユーザーとディベロッパー、どちらかが一方的に理不尽を押し付けられるような考え方はしません。当たり前の話なので以下略。
先ずこの話をするにあたり、個人の見解スタンスとしては今回の報酬減はやり方が露骨すぎた(ユーザーに目に見えて不利益があり過ぎた)と考えています。そもそも話の〝資産配り過ぎ問題〟については事実ありますが、多くのユーザーにとってそれは関係のない事です。前段で述べたように、9.7以前の資産配布状況がプレイヤー視点でのスタンダードであるため、今回はそこへ向けて可能な限り調整をする必要があると思います。
ではどのような調整が良いのでしょうか。
アリーナ実装はディベロッパーが多くの投資の末、完成させたこのゲームの1つ大きな看板となるコンテンツでしょう。多くの人が懸念し、また個人も実感していますが、コンテンツを増やし、ユーザーの利用コンテンツが分裂することによる非マッチングは抑えるべき点です。
それらを踏まえたとき、1つの提案としてアリーナ報酬の上方修整があると思います。
報酬自体そもそもショボいんですよね。
最低保障マナコイン15?カケラ20?!(い、いらねー…)
報酬を視点とした時に自ら進んでやる気が起きる内容では無いです。ここはアリーナ入場通貨(課金)とログインボーナスを見直してでも、最低保障に召喚チケット1枚は欲しいです。課金者目線で資産増やしたいからパック剥がずにアリーナやろ。これ、現状の内容だと先ず無い選択ですから。
まとめ
これ以上だらだら話しても詰まらないのでまとめます。
今回の報酬減は1ユーザーとして悲しい事由でした。何が悲しいって、アッパー調整とアリーナ実装の話題がこのネガティブな話題で霞んでしまっていること。
今回のアップデートで大きな熱風のうねりを生み、またそれを踏み台にしてこれからコラボやCMと大きく展開して行くはずであろう予測から外れています。
書き手としてもこんなくだらないことを書くのは本当に不本意で消沈しています。
投資から収穫フェイズへ移行するにしても、もう少しやり方があると思います。マナコインがある中でわざわざアリーナ専用通貨を設けたのも運営の意図が透けて見えるようで大変いやらしく思います。今回の事由は、これまで築いたユーザーとディベロッパー間の信頼関係を大きく損なうものであることは事実でしょう。これまでディベロッパーはユーザーに対し誠実を積み重ねてきただけに余計勿体無く思います。
誰がこんな大幅な報酬減を予測していたでしょうか。『ゲリラx下方』の掛け合わせはユーザーが最も嫌う行為です。それに私のような数々のゲームを渡り歩き目の肥えたオジサン達がDXMにはいっぱい居ます。
いずれの決定をするにせよ、スピード感のある決断と実行が望みです。
どんな結果が出るか分かりませんが、今日はこの辺で閉めさせていただきます。
私はメシーカEXに用事があるのでな!
(まじでこれ以上稼働増やすのやめて)
9.7 DXM Revolution
この記事は主に引退勢へ向けて発信する記事です。
DXMがサービス開始からこれまでどのような歩みを進め、9月にどう変わるのか。
1ユーザーとして、DXMのクソだと思っている点はおおよそ多くの引退者と似たような認識を持っていると思っているため、嫌な部分や懸念点などについては忌憚なく述べさせていただき、その一方で個人が感じる希望と明るい未来を取りあげて行きたい。
〈メニュー〉
◼︎これまでの歩み
まず始めにDXMのサービス開始から現在までの軌跡を振り返ろう。
主要なアップデート、改修は以下5点となる。
・小型拡張「烈火の群狼」の参入(4月)
・月間ミッションの導入(5月)
・テュール達のナーフ(6月)
・大型拡張「メシーカ」の参入(7月)
・獅子王杯(8月)
以下に1つずつ掘り下げる。
小型拡張「烈火の群狼」の参入(4月)
このエキスパッションがもたらした代表的な事象は、アスガルド最強伝説である。
具体的にはレジェンダリー《百戦神 テュール》の登場によって、たった一枚でこれまでの環境を木っ端微塵にした。その能力はゲームの明暗を分かつ5マナ帯という大事な局面でバフ、除去、ユニット展開を一度に行うもので、一方的な盤面を作り上げ、テンポを加速させ相対的不利とされるルクソールさえも悠々と食った。
面白いのはテュール“たったの一枚”で環境が崩壊したという点で、良し悪しは別としてDXMにおいて個々の持つカードパワーがとても低く設定されているという評価を印象付ける。
実装前の下馬評では《軍狼神 アレース》がひどく叩かれ、強い勢力を更に強くさせてどうするんだ、という批評を受ける。しかしながら結果は先述した通りで、アレース同等のパワーを持つカードが各勢力あったなら、テュールに追随し結果はもう少し違っていたのかも知れない。追加されたカードは今環境で活躍するカードも多く存在するが、使われるカードとそうでないカードの明暗がハッキリと分かれ一貫性や伝えたいテーマが分からない。客観的に見て失敗の多かったエキスパッションである。
月間ミッションの導入(5月)
サービス開始初期より声の上がっていたやり込み要素に対する1つの回答が当施策である。
これまでは何戦してもプレイヤーに対し明確な恩恵は与えられず、それがユーザー離れ、AI遭遇率の上昇と負の連鎖を生み出していた。極端に言えば過去に一度でもSになり記念カードを受け取れば、それ以降未プレイであっても障害はなく、ユーザー目線でそれを良い意味で捉えるなら稼働の少ない手離れの良いゲーム。悪い意味で捉えるならやり甲斐のないゲームであった。
対戦ゲームは人がいればこそという所が大きくあるため、この施策は一定の成果を生んだように思う。
また、6月からは毎月Sランク到達報酬として特定のレジェンダリーカードが付与され、新旧ユーザー共にまずはSを目指す、という指標を強く促している。8月現在ではランクマッチ700勝までアチーブメントがあり、廃プレイヤーも満足できる報酬が用意されている。
しかしながら、局所的にSランクでポイントを上げる意味という点においては明確な恩恵が用意されておらず、現状片手落ち。課題を残している。※この是正については後述する9.7アップデート内容に続く。
テュール達のナーフ(6月)
かねてから批判的意見の多かったカードにメスが入ったのが6月だ。対象は《ガーディアン ハデス》、《魔蝸牛 デーモンスネイル》、《百戦神 テュール》の3枚である。以下にそれぞれナーフの内容とその後の動向、個人の所見を続ける。
・ガーディアン ハデス
〈ナーフ内容〉
フェイスへのダメージ選択不可
オリンポスという勢力の持つ象徴的な強みに【速攻】がある。速攻という能力の強さについては直近の公式オフライン大会優勝者・椎太氏(@ theta1121)がブログで以下のようなニュアンスのことを言っている。
『速攻はレーン概念の下、擬似的バーン(直接ダメージ)の役割を果たし、そこに同等のコスト、リソースを割いてブロックや除去をしても失ったライフは還らない。』
正にその通りでよく整理された理解だと思う。放置すればダメージは継続し、防御を取ろうともまた次の擬似バーンが繰り出される。
相対的にハデスが他のガーディアンより確実に優位であったかは一重に言い切れない点である。しかしながら、相手よりも先回りでフェイスへ打点を重ねることを得意とする勢力がガーディアンパワーによっていつでもバーンを積めるというのは、物凄い脅威であったことには違いない。
ナーフ後の現在においてもハデスは依然として露出の多いガーディアンの一角として君臨しているため、結果として良采配だったと思う。
・魔蝸牛 デーモンスネイル
〈ナーフ内容〉
HP-1
デメリットとして設計されたであろう酸溜まりが然程大きなデメリットとして機能せず(その理由は過去記事や様々なところで散見できるため割愛)、脳死で1マナ初手はスネイルで安定。という認識を多くのプレイヤーが持っていた。実際にそれはその通りで、デッキの多様性という考え方においてこのカードはマストセレクト、一択。という状態は極めて面白味を欠く事態を引き起こすため、妥当な修正と考える。
現在では、後に追加された大型拡張メシーカ中に自軍盤面の地形数を参照し、一定数以上あれば恩恵を得る【地脈の力】という能力があるため、ナーフ後も死亡せず構築次第でしっかりと強みを活かせるカードとして活躍している。
・百戦神 テュール
〈ナーフ内容〉
コスト+1、HPアップBuffの撤廃
このゲームにおいてATKとHPを比較した時に、HPの方が有用である場合が多い。その理由は単純で、HPが1でも残っているならばそのユニットは継続して攻撃を実行することができ、相手のユニットと相殺、あるいはスペルによる除去にあったとしても、確実に相手のハンドリソースを一枚吐かせ有利交換をするからだ。
テュールの奮う理不尽に萎えて引退した人は沢山いるだろう。でも今、改めて安心して欲しい。その脅威は現在ナーフによって適正なものへと振り替えられている。
最大の魅力であったHP上昇のバフは取り上げられて、展開も遅くなった。現役者の中ではナーフ前と比較して見る影もなくナリを潜めてしまったという印象を持つ人も多いかもしれない。でも、前が強すぎたのだ。対向に置かれたユニットを除去し(道を開けて)、相手のフェイスへ打点を通すという行為は戦術において依然、相手の意表を突く非常に有効な手段である。
現在の環境では課題とする苦手勢力・ルクソール攻略において速さで倒しきる力をアスガルドは持たないため活躍の機会は逃しているものの、持っている能力がユニーク且つ有用さを残したためこのナーフは正しかったと思う。いつまた環境次第で露出が増えてもおかしくない潜在的パワーを秘める大変良いカードとなった。
大型拡張「メシーカ」の参入(7月)
メシーカを参入させたものが8月末現在の環境である。そのコンセプトは、DXM独自の概念、〝地形〟に焦点を当てるものとなっている。
事前情報の段階では既存の地形強化カードが多数盛り込まれるものだろう、との予測に対し、DXMはある意味斜め上を行った。メシーカは基本地形の強化というよりも、特殊地形を増やす方向にベクトルを向けている。個人の印象としては、独自概念の多いゲームであるがゆえに取っつきにくかった新規が特殊地形を増やすことでより難解で入りにくいものとなり、一層身内感が増したのではないかという疑念は持っている。
新たに登場したバトルギミックとしては先述・デーモンスネイルの段で挙げた【地脈の力】とマス配置を意識させる【禁忌の儀式】 ※その能力を持ったユニット展開時、前列ユニットを破壊した場合特殊効果が発動する。が新しく登場している。それらはどちらも局所的な強みを持ち、拡張性があり、将来的にも腐りにくい印象を持つセンスの光るものだ。
現役者として環境を俯瞰すると、スタンダードのみで構成されたオリンポス・ルクソール二大巨塔の最初期やテュールが猛威を奮った群狼期と比較して、現在の勢力間格差は特筆して悲観的なことを述べるものではないと思っている。
メシーカがもたらした象徴的な事象としてはルクソールが序〜中盤に盤面強化を施されたことにより、様々なアーキタイプ・またデッキタイプを生み出したことと、イズモに地形の恩恵を活用した新しい戦略が生まれたことが挙げられる。またそれらによって、アスガルドとトリニティは、アグロとコントロール両面意識によってリソース不足の問題を抱えて、工夫を求められている。
総じてメシーカがもたらしたパワーは然程大きいものではなく、おとなしい性格のものであると思っている。裏を返せば、冒険や新しい戦略を考える余地があるものではないとも言えるのだが。
公式が直近で出した勢力使用構成比
獅子王杯(8月)
既存の月末イベント「最強決定戦」に代わり打ち出されたイベント。内容は三回負けるまでに何勝できるか、を競うというもの。
最強決定戦では稼働を割き、勝率51%あればいくらでもポイントが積める仕様上、“暇人決定戦”と揶揄されていたが、今回実施された獅子王杯は好評で、競技性があり贔屓目なしに個人もDXMが確実に良くなっていると初めて実感できた。
※その他、変遷の詳細を知りたい場合は以下の別記事を参照ください。
DXM軌跡類アーカイブ
— YOSHI (@YOSHI_raface) 2017年8月29日
自分が欲しかったので作った#デュエルエクスマキナ #DXM https://t.co/r4wR60Ste0
◼︎9.7に変革が起きる
前段が長くなってしまったが、タイトルにRevolutionと名付けた本題に入っていこう。現在9月の実装予定として公式から展開されている内容が以下3点である。全てが既存のDXMから脱却し、大きく飛躍する一手となることに期待している。
・デュエルアリーナの実装(9.7〜)
・ランクマッチの仕様変更(9.1〜)
・多数カードのアッパー修正(9.7〜)
以下に1つずつ掘り下げる。
デュエルアリーナの実装
デュエルアリーナとは、ハースストーンで言う闘技場、シャドウバースで言う2Pickにあたる新モードである。ドラフト方式(ランダムに挙げられたカードの中から選択を繰り返しデッキを作る方法)のデッキを持ち寄り対戦することで、構築戦よりもプレイヤーの実力が表に出やすい。これはかねてから多くのプレイヤーに待ち望まれていた機能で、この度晴れて実装となる。
ランクマッチの仕様変更
“DXMって、Sランク到達したらその後星稼ぐ意味ないもんな。”DXMをプレイしたことのあるユーザーであれば、これは共通認識である。実際その通りで、目に見える形で得られる栄光も恩恵も無い。ハッキリ言ってこの仕様をそのまま放置するのは何故?バカなの?と個人はずっと思っていた。先述した月間ミッションの段で触れたように、やり込み要素や強さを他へ提示できる分かりやすい指標は絶対に必要で、これまでは片手落ちもいいところ、Sに到達以降多くのプレイヤーは次なる目標を失っていたのだ。
それが今回、ついにテコ入れされる。細かく分けて以下3つが本件の内容である。
・S帯レーティングの導入
・上位者へ特別称号付与
・上位者へ報酬付与
強者との戦いに勝てばより多くのポイントを得、逆にポイント差の開いた挑戦者に負ければ多くを失うという。そして最後には上位報酬が与えられるようで、バトル中ガーディアンの見た目にも変化があるとのことだ。※見た目変化の部分についてはSになれば全員そうなるのか、情報が錯綜し何とも言えない部分があります。
ゲームの楽しみ方は千差万別であるが、本流である「対戦ゲームで相手に打ち勝ち栄光を得る」という目的に対し、今回実装される機能が回答となり、“やり込み要素”という点において月間ミッションと合わせ完全回答となることに期待している。
多数カードのアッパー修正
今回既存カードが20枚、ガーディアンの調整が5体という、大規模な修正をかけられることが決定している。一枚一枚に注釈を入れていては流石に疲れてしまうので、詳細は以下、公式からの案内を参照していただきたい。
https://dxm-portal.gamematome.jp/game/972/wiki/運営だより_クリエイターレター_クリエイターレター Vol.4
要約するなら〝地形利用の加速〟と〝トリニティの個性を強める〟という2点になるだろう。
〈アッパー内容〉
ATK+3/HP+3/ドロータイミングの強化/ライフゲイン+2
この場では派手なカードを取り上げた。これは先のことは置いておいて、悲観せず、とりあえず使ってみたくなる。
アッパー修正というのは補償の観点からなんとなく施しにくいものなのかと勝手に思っていたが、今回のこれは本当に寝耳に水で、その数、質から烈火の群狼が追加された時以上のエネルギーをはらみ、環境に影響を与えるものと思う。
◼︎懸念点と希望すること
本題を終えてだいぶ長くなったのでここからは駆け足で行こう。
9月の施策が上手く行ったものとし、現状DXMに個人が感じる懸念事項は3点ある。
1点目は、カードの採用傾向が半分画一的であるということ。これは黎明期におけるカードプールの問題なのか、または採用率の高いグッドスタッフの能力が突出しすぎているのか、デッキ枠の問題か、同一カードの使用枚数制限の関係か。あるいはもっと根深いところでコンボパーツやシナジーカードの設計にそもそも下地ができていないのか。考えられる理由は沢山あって、多分どれも当て嵌まるのだろうが、勝つことを至上として意識した場合に、
「このデッキを使うならこれが必要、」
「これとこれとこれとこれ!…も必要。」
そうやっているとほとんどデッキに自由の枠なんて残らない。それが気になる。
2点目は希望になるが、過去に多く付与されたリワードカードの再取得について救済措置が欲しい。もう手に入らないものというのは希少性が高い一方で、新しく始める人、復帰する人にとっては1つの障害となる。手に入らないものがあると言うだけで萎える人は少なくないと思っていて、現役プレイヤーであっても取りこぼしを常にマークするのは疲れてしまうし、それが高レートであっても別の手段で取得できるなら時間の使い方に緩急をつけられるはずだ。
3点目は望まない稼働数の増加について。既に取得された方には苦労がわかると思うが、8月の特別称号「メシーカを極めし者」、メシーカEXバトル、ハッキリ言ってムカついている。
何故、このような無駄に稼働を膨大に要するものを消化しなければならないのか。内容もかなりいやらしい。テスカのミッションは普通にプレイしていたら絶対にクリアできない。シンプルに「メシーカカードをX枚使う」とかじゃダメだったのか。運営自らわざわざ謎に高いハードルを設けてプレイヤーをふるいに掛け、誰得なの?と思わざるを得ない。3000欠片も用意して本来喜ばれるべきところをわざわざ損をしに行っている。メインコンテンツがありながらも稼働数を増長させるイベントに対して個人は否定的だ。特に今回の称号関連は純然たる作業。作業を押し付けるな、と言いたい。
◼︎まとめ
最後は語気が荒くなってしまったが、本投稿の主旨はそこではない。9月に施される施策はどれも素晴らしく、また長らく待ち望んでいたもので、それらを歓迎し嬉しくなったのでそれがブログ更新の動機となった。やっと、他の人気タイトルにコンテンツ量で肩を並べるのではないかと。
DXMも沢山の人がプレイし、辞めていったと思う。それでも妥当性を持ちながら少しずつ改修し、ゲームが進化していることを実感している。私の記憶が確かならば、初期に開発は既存カードに対して下方も上方も修正はしないと強気に明言していたのだ。それを撤回し、たったの数ヶ月でここまで軌道修正したことには頭が下がる。
本投稿が引退したプレイヤーの関心を引き、一人でも復帰する助けとなったら個人は大変嬉しく思う。
俺たちのDXMはこれからだ!
そんな祭り感を夜な夜な滲ませながら床に着こうと思う、明日の仕事は当然ヤバイ。長文を読んでいただいた皆様、ありがとうございました。またゲームでお会いしましょう。Thank You!!
デュエルエクスマキナ変遷と軌跡
DXM変遷と軌跡(忘備用)
あったら色々便利でどこにもなかったので。
[随時更新]最終更新日:2017/8/29
※オフライン系は割愛、後に追加するかも
〈メニュー〉
アップデート、仕様変更、その他改修
03月
・正式サービス開始
04月
・小型拡張パック「烈火の群狼」
05月
・月間ミッションの導入
・デッキコード機能
・ランクマッチAランク以上の連勝ボーナス撤廃
・最強決定戦のリーグ細分化
- エキスパート:Sのみ
- ノーマル:D〜A+
- ビギナー:E+以下
06月
・下方修正
- 百戦神 テュール:Cost+1/HPBuff消失
- 魔蝸牛 デーモンスネイル:HP-1
- ガーディアン ハデス:Face選択不可
【参考資料】
07月
・大型拡張パック「メシーカ」
・ユニット固有ボイスの大量追加
・ゴールデンカードのゴールド枠追加
・デッキソート直近使用デッキが一番上に
・地形「たゆたう流砂」ニュートラル→ルクソールに
・バトルルールの変更
- 破壊状態のユニットはスキルの対象外
- 地形発動タイミングの変更
【参考資料】https://dxm-portal.gamematome.jp/game/972/wiki/7月6日(木)アップデートに伴うバトルルールの一部変更について
08月
・Mirattive、ios単独配信可能に
09月(予定)
・バトルアリーナ
・ランクマッチの仕様変更
- S帯レーティングの導入
- 上位入賞で特別称号
- ランクマッチ順位報酬
・上方修正(多数)
【参考資料】
https://dxm-portal.gamematome.jp/game/972/wiki/運営だより_クリエイターレター_クリエイターレター Vol.4
イベント
◆:ソロ ◇:対人
※報酬に限定品がある場合は特記
常設イベント
◆戦乱前夜
03/30 〜 現在
◆パズルバトル
03/30 〜 現在
◆メシーカ前日譚 風と土と
06/26 〜 現在
◆ストーリー メシーカ 覚醒する大地
07/06 〜 現在
◆ストーリー メシーカ EXバトル
08/24 〜 ??
定期イベント
04/15 〜 04/16
05/12 〜 05/13
06/09 〜 06/10
07/07 〜 07/10
07/21 〜 07/24
08/09 〜 08/16:G彷徨えるゴーレム
◇最強決定戦
04/28 〜 04/30:Gアテナ
05/29 〜 05/31:Gフレイヤ
06/24 〜 06/26:Gラファエル
07/28 〜 07/31:Gアヌビス
◇獅子王杯(旧最強決定戦)
08/25 〜 08/28:Gポセイドン
期間限定イベント
◆アテナの試練〜絆の戦地
04/05 〜 05/28
◇神々の進撃
04/07 〜 04/09
08/16 〜 08/25
◇魔道書の決闘
04/21 〜 04/23
◆烈火の群狼
04/30 〜 05/31
◇キメラ使いの戦い
05/03 〜 05/05
◆対決!HareruyaPros!
05/06 〜 05/31:コラボカード※生成で取得可能
◇陰陽合戦記
05/19 〜 05/21
◆強襲!ウルモル族
05/29 〜 08/29
◇進化の秘術杯
06/01 〜 06/05
◇大地の脈動
06/27 〜 07/07
◇鏡身の戦場
07/10 〜 07/21
◇水晶の波動
07/31 〜 08/09:Gアメノウズメ
◇螺旋庭園「壺投げ合戦」
08/28 〜 09/01
◇螺旋庭園「千客万来!イズモ行商祭」
09/05 〜 09/08
ミッション
月間ミッション
06月:カオスキメラ
07月:リッチロード
08月:ホムンクルスのサルファー、称号「メシーカを極めし者」
期間限定ミッション
06/16 〜 08/13:限定アメノウズメ、称号「密林の民」、「ウズメの音頭取り」
08/25 〜 09/??:称号「エイリークの懐刀」「コアトリクエの腹心」ほか
カード考察-アスガルド
随時更新中〔最終更新日2017/8/13〕
大型拡張「メシーカ」参入にあたり現環境に沿ったリストへ順次再構築。
以下に考察した多くは前環境のもののため留意する必要がある。
全56種(内0種改修済み)
〈メニュー〉
〈基本的な考え方〉
現カードプールと環境に鑑み、自身の理解を目的とし、カードを考察する。
・全てのカードが基本的に使える認識を前提に一枚ずつしっかり使い込み、丁寧に考察して行きたい。(未使用の心象エアプ評価はしない)
・この考察の着地点は、効率化ではなく多様性の模索であり、各カード不利な点やダメな点がある場合は明確化しつつも、できる限りこんな有効手段がある、という前向きで有益なものとしたい。
・環境は取り上げるが、このマナ帯は鉄板のこいつが居るから入れるが枠ない、という解釈は避けたい。
〈定義〉
本文に記載する言葉について、勝手な解釈をここに定義する。
・ゲームの時間軸
立ち上がり:1-3ターン目
序盤:1-10ターン目
中盤:10-20ターン目
終盤:20-25ターン目
最終:25ターン目以降
・ユニットサイズ
小型:1-3マナ
中型:4-5マナ
大型:6マナ以上
・評価記号
◎:非常に有効である
◯:有効である
▲:多くの場合で有効となりにくい
〈フォーマット〉
◼︎今環境へのコメント
◼︎活躍する時間帯(◎・◯・▲)
立:序:中:終:最終:
◼︎親和性のある型とカード
◼︎基本考察
ユニットカード
小型(1-3マナ)
ドワーフの氷屋
●
「氷河メーカー」。「氷河」により恩恵を受ける《狼戦士 ウルフヘジン》、《ドワーフの戦士》等「氷河乗り」を複数盛り込む場合使用される。
1マナユニットであるため立ち上がり局面から展開でき、壁となるため他の「氷河メーカー」と比較して相手にテンポを譲ることなくスムーズに後のゲームメイクへ繋げられる。
対戦相手の立場で考えた場合、「氷河」は特にサイズの大きいユニットを展開される事が分かりきっているため、「レーン概念」によって氷屋を倒すことを敢えて避けるのがプレイングテクニックとなっている。そのため自身が使用する際は同レーンに無視できないサイズのユニットを展開して相手に対向ユニットを出させる事が重要。
氷屋自身は展開した時点で仕事を終えて後のウルフヘジンらに引継ぐという観点から、先行1マナで氷屋を握っていても敢えて展開せず、相手がユニットを展開した同レーンに召喚することも必要と考える。
ノースの略奪者
●
1マナユニットのため立ち上がりから展開でき、事故防止の安定したゲームメイクに寄与する。
相手に対向ユニットを展開された場合は本人のATK1により、ほとんどの場合で相殺を取れない。
希少な「バイキング種族」。
療法手 シギュン
●
耐久性があり、スタッツは本人のスキルとマッチしている。
G・トールのトークンや一度に多数起動するユニット、小型多載のバフタイプデッキ等と親和性が高いが普通に運用してもかなりのライフを得られる。
特に対ルクソールにおいて相対的に〈冥獣 アメミット〉や〈ファラオマスクの呪い〉の脅威を緩和させた功績は大きい。
ドワーフの鍛冶屋
●
現状ユニットのスタッツは全カード投資マナに沿ってほぼ近似値で極端にATKないしHPの尖ったものは少ないため、+1/1の効果は見た目より遥かに大きい。
1-3ターン目の立ち上がり局面においては恩恵を受けた前列ユニットが多くのケースで本来相殺となるカードを有利交換し、好循環を作り出すことができる。
《大地蛇 ヨルムンガンド》や《熊戦士 ベルセルク》など展開直後のATK1がネックとなるユニットにバフをかけてあげるとそのカードの強みだけを残せる。
本人に殺傷力はなく、HPも微力で各種AoEに巻き込まれたり、対向に縦展開されると割合簡単に突破される、盤面が更地では無意味になる等、弱みがあるものの投資コストともたらす恩恵に鑑みれば有用面の方が大きい。
ゲームメイクにおいて他ユニットの前列展開を意識的に強いられることが行動を制限するが、それも最大恩恵を前提とした《ダインスレイフの波動》ほど縛りが強いものではないため、さほど気にするレベルではなく収まっている。
スヴェアの交易商
ヒールがトリガーとなってシナジーを生む《大蛸 クラーケン》や盤面に残り続けることでサイズが膨らむ《熊戦士 ベルセルク》等と相性が良い。
珍しい能力を持ったアスガルドの色濃いカード。本人は殴れないため、必然的に同レーンで突破されやすい。
海氷巨人 フリームスルス
●
「氷河メーカー」。単騎で複数の「氷河」を生成する力を有するのは当カードのみ。
本人が〝生き残りながら〟〝盤面ユニットをヒールする〟という条件は見て受ける印象よりハードルがかなり高く、適切なマナ帯域にウルフヘジンら「氷河乗り」へ盤面を引継ぐにはG・フレイヤのGPでマナ拘束されることを甘受するか《スヴェアの交易商》を利用し、デッキパワーを落とす等の制限が付いて回る。
《砂塵神 メジェド》のように即効且つ確実性のあるカードが「氷河」には必要だったのだが、安定した「氷河」形成には現状ドローできなかった場合や即除去された場合のフォローとして、他の「氷河メーカー」を複数盛り込む必要があり、必然的にデッキパワーが落ちることが「氷河」主体デッキ最大の枷となっている。
ドワーフの少年
●
対戦相手によって評価が大きく変動するカード。同勢力の2マナユニットの中で一番攻撃性に優れる。
対コントロールルクソールにおいては、G・イシスのGPも「成長」によって打ち消されるため一定の評価ができる。
対オリンポスにおいては、初動のATK1が大きく後手を踏む形になり、《ケンタウロスの軽装騎兵》等「速攻持ち」で不利トレードをされることが多く、後になってゲームを振り返るとその一打でゲームが決まってた、という局面が多くあり、かなり心許ない。
その他勢力との戦いにおいては、割合しっかり自分のターンまで生存し安定した2/2から始められるため最低限投資コスト相応の働きをする。
バイキングの見習い
トロールの凍戦士
大地蛇 ヨルムンガンド
●
投資コストに対してスキル・スタッツ両面で優れる。
ネックとなる点は初動時に自分のターンまでしっかり生存させATK2を取得しないと攻撃して来たユニットを多くの場合で倒せず自分だけリタイアしてしまうため、相手勢力の警戒すべきムーブや盤面の状況を見て展開すること。
4ターン目以降は対向にATK4を超えるユニットが出始めるため、初動の遅い「成長」の性質上活躍の幅はどうしても限定されてくる。真価を発揮するには適切な3マナ帯域から展開するのが望ましく、それにはある程度デッキリソースを1-2マナ帯に割く必要がある。
守護の戦乙女 ヘルヴォル
●
スタッツが水準を満たした上で、「氷河」シナジーによる非常に強力なスキルを持つ。
本来リタイアするはずのユニットが継続して盤面に居残ることは相手には割く必要のなかった追加リソースを割かせることに紐付くため、全体HP1上げるという効果はとてつもなく強力。
持つスキルの強力無比さとバランスを取るように、前提条件とスキル発動タイミングの縛りが非常に強い。「氷河」生成するというのはその分相対的にデッキパワーないし、バトル中テンポ面での拘束を受けることとイコールになるし、展開から相手のリターンで生存しなければスキル恩恵を受けられない。
安定した盤面形成と当カードが有効となる運用に開発のリソースを割くだけの潜在パワーは大いに秘めている。
狼戦士 ウルフヘジン
●
「氷河乗り」。素出しで高スペックな上に「氷河」へ乗ると一回りサイズが上がる。
3/2/3というスタッツそのものが優秀。環境のAoEや各種ダメージスペルはダメージ:2が多く、また1-3マナ帯のユニットの多くはATK2であることから、それらのカード1枚でウルフヘジンを処理することはできず、多くの場合で複数交換やG・ハデスのマナ拘束をさせることに貢献する。
霊鹿 エイクスュルニル
●
小型のバフスキル持ちユニット。
本人のスタッツは水準だが盤面に及ぼす効果込みで考えると3/4/3と、相当高い。
前提条件に左右ユニットを展開する必要があるため、最大の恩恵を受けるべく通常だと5ターン目以降の展開が多い。そのため当カードは3マナ帯で使用するカードではなく、3ターン目以降に使用する質の高いバッファーといった認識になる。
上方修正を受けた左右のユニットが相手の計算を狂わせるのに有効で、現状ユニットのスタッツは全カード投資マナに沿ってほぼ近似値で極端にATKないしHPの尖ったものは少ないため、+1/1の効果は見た目より遥かに大きい。+1/1の修正が届かなかった相手のHP1を削り切り、またギリギリこちらのHP1を残し生き残る状況を作る。
デーンの狩人
●
「氷河乗り」。素出しで水準を満たした上で「氷河」へ乗ると一回りサイズが上がる。
前段の《狼戦士 ウルフヘジン》でHP2と3に大変大きな壁があることは説明の通りで、「氷河」へ乗れない場合はほとんどの場合で相殺となるため、護衛が付いている意味は無いに等しい。
ドワーフの炊事番
●
3/2/3の高スタッツに即時2ライフ回復付き。
《聖鳥 シームルグ》の上位互換。特に対アグロとのダメージレースでアスガルドがテンポを握ることは相対的に難しいのが現状であり、失われたテンポをライフ回復手段で追随することができる。
前段の《狼戦士 ウルフヘジン》で3/2/3スタッツの有用度は説明の通り、多くの場合で複数交換やG・ハデスのマナ拘束をさせることに貢献する。
先兵長 レイフ
フレイヤの戦猪
中型(4-5マナ)
激情の戦乙女 カーラ
伝書鴉 フギン
●
ドロー加速の希少ユニット。スタッツはスキルが潜在的パワーを秘めるためATK1と抑えられている。
一般にTCGにおけるドロー加速は選択肢の幅を広げ、事故を防止し、特定キーカードを引く助力になる等でAoE同様強いアクションとされるが、このゲームにはデッキ切れによるファティーグダメージがあるため、ドロー加速は死を早める行為という一面を持つ。
イズモに《怪異 コダマ》という同じくドロー加速のカードが存在するが、主に回復を用いたコントロールアスガルドではゲーム展開が遅いため、イズモの軽コスト連打とは性質が根本で異なり、現状追加ドローをすることの大きなアドバンテージは生まないと考えている。
ノースの竜船
●
サーチスキルを持った希少なユニット。
現状サーチできるバイキングは《1/1/1ノースの略奪者》、《2/0/2スヴェアの交易商》、《3/2/3ウルフヘジン》の3種となり、サーチというよりデッキ圧縮の観点になる。
圧縮行為の良し悪しはあるがこのカードを揃えたら勝ち確定、というようなコンボも現状見つかっておらずファティーグを早めてまで圧縮する意味は無い。
スタッツもサーチカードという拡張性を見越しての少し抑えられた性能になっているため、現状では有効となる運用が難しい。今後のカードプール拡張に期待。
傭兵 ハスカール
●
バランスの良い護衛付きユニット。特にアグロ系に対して高いパフォーマンスを発揮する。
対アグロにおいて、このマナ帯域でATK2且つ、HP3以上の護衛付きというスペックが環境に適している。比較対象に展開直後の《大地蛇 ヨルムンガンド》、素出し(氷河なし)の《デーンの狩人》を出すと、コストも違いそれぞれの強みがあるものの、ヨルムンガンドはATK1によって相手ユニットを倒せないし、狩人はHP2によって相手と相殺になる。
特別な条件もなく展開から即時、盤面が更地であっても多くの場合でレーンを無視した複数交換、またはマナ拘束を可能とさせるのがこのカードの強みで、安定性がある。
対オリンポスにおいては、《ケラウノスの制裁》が飛ぶまで時間がまだ残される点も好評価。
熊戦士 ベルセルク
●
体力特化の中型ユニットで、戦闘を交わすことで攻撃性を上げる。
4マナ/HP5は破格で、同マナ帯に1枚のカードで当カードを盤面からリタイアさせるのは非常に限定的と言える。
ネックとなる展開直後のATK1は一度戦闘(または酸溜まり)し、減ったHPをヒールとユニット同時展開の《トロールの運搬人》や《豊穣神 フレイヤ》で回復してあげるとテンポを相手へ譲らずに本人の良さだけを残してあげることができる。
ドワーフの戦士
●
「氷河乗り」。素出しで高スペックな上に「氷河」へ乗ると一回りサイズが上がる。
〝適切なマナ帯までに盤面の優位性を譲ることなく地形生成する〟という前提条件は難度が高いが、《彷徨えるゴーレム》に同コスト帯で対抗できるのは大変限定的で、且つ打ち勝てるのはこのカードのみ。
前段の《ウルフヘジン》で記載したHP2と3の大きな違いと同様に、HP4と5の間にも《セクメトの殺戮》に巻き込まれないという大変大きな壁がある。
トロールの運搬人
●
ユニットとヒールの同時展開を可能とさせるユニット。
平時、バトル中においてG・フレイヤのヒール量が2点確定ならこのユニットに使用するけど1だと意味がなくて使用できないケースは多々ある。そのギャンブル性を解消し、同時に本来ヒールによるマナ拘束を受けてテンポ面で後退する場面をユニット同時展開の性能でしっかり抑える。
同列に全快したユニットが存在しても傷付いたユニットをちゃんとヒールする。
ヒールをトリガーとしたスキルを持つ《大蛸 クラーケン》等のユニットが真価を発揮するにはスキル発動しなければならず、それには〝本人が生き長らえつつ〟、〝ヒールのリソースを割く〟この二つの条件をプレイヤーへ求め続けるため、G・フレイヤのGPでヒールすれば良いという話より実際は複雑で、マナ拘束を受けてテンポを譲ればそのユニットは死にやすくなるし、スキルが発動出来なければ意味がない。そのため、現在ユニット+ヒール同時展開の当カードが受け持つ役割とその有効性は、大きいと考える。
ヘルの衛兵
百戦神 テュール
◯ナーフ後現行テュール
▲旧テュール
投資コストに対しスタッツ、スキル両面で優れる中型ユニット。
意図すればターン制と召喚酔いの縛りを無視して一方的に相手のユニットを除去+ユニット展開+バフという滅茶苦茶なことを一枚でやっている。
このマナ帯域はゲームの明暗を分かつ重要な局面であり、突っ込んで言えば〝相手のさっきのターンはなしにして、こっち中型ユニットにおまけでバフ付けちゃうね〟、こんなことをやっているので、相手はプランが崩れない訳がない。
相手のダメージAoEに巻き込まれた際、並列ユニットがHP0になっても、バフを受けた場合そのユニットは生存する。
このカードの登場によって陽の目を見るカードは多く、特に大型ユニットを多数盛込み連打するコントロールデッキの確立に貢献。
混沌神 ロキ
●
自軍の盤面全体へHPをATKへ転化させるというトリッキーなスキルを持つ中型ユニット。
対向へユニット展開された場合、サイズの大小を問わず相手ユニットのHPを超えたATKの余剰分は意味を成さないため、現状寿命を縮めてまだ上げたATKが有効となり、継続して盤面へ影響を及ぼすような運用法は見つかっていない。
効果は問答無用にHP0にし、リタイアさせる。
《守護の戦乙女 ヘルヴォル》との同時起動がロキの癖を取り払い、恩恵のみ残してくれるが、地形生成とサーチのない状況下でキーカード2枚のピック、それを超えた先にもたらす影響と考えた時に、どうしても環境が当カードを許してくれるのは難しいと感じる。
狩猟神 スカジ
ユニット生成のスキルを持った中型ユニット。
スタッツはユニット生成を前提としたように投資コストに対して抑えられている。
《魔蝸牛 デーモンスネイル》が生成した毒沼に浸けるコンボで、一回り小さい擬似的サナム状況を作り出せる。
対ルクソールにおいては《セクメトの殺戮》然り、《レシェフの疫病》でも雪狼もろとも簡単に溶けてしまう。
勝利の戦乙女 ブリュンヒルデ
ヒールをトリガーにしたスキルを持つ中型ユニット。
バトルの時間軸において、このマナ帯域は互いに盤面の取り合いが激しくなる局面で、盤面にユニットを残したまま且つスキルを発動させるための追加リソースを割くのは難しい。
ヒールとユニット展開を同時にやってのける《トロールの運搬人》、《豊穣神 フレイヤ》と親和性が高い。
大型(6-10マナ)
豊穣神 フレイヤ
投資コストに対してやや重い。前段の《トロールの運搬人》同様、確定ヒールが割と良い働きをする。
現状複数のユニットが同時に負傷したまま生存しているシーンは極めて限定的であるため、ほとんどの場合で本人の最大効果は発揮されない。強いて挙げればアスガルドのAoEによる負傷。環境の主となるスペルやレジェンドユニットのAoEのほとんどはダメージではなく、HPの値そのものをマイナスするため負傷扱いとならない。
オールヒール+ユニットの同時展開はコンセプト自体極めて有用で、今後のカードプール拡張次第で大化けする可能性を十分に秘める。
大蛸 クラーケン
このマナ帯域でこのユニットを単騎突破できるのは限定的で盤面に残したまま、《魔狼 フェンリル》を展開すると盤面を非常に厚く固めることができる。
G・フレイヤのGPでシナジーは完結できるため、《サテュロスの短弓兵》のように、テーマデッキを組む必要がなく独立して挿入できるのは強み。(特定キーカードを主体としたデッキに対して話を少し膨らませると、サテュロスの短弓兵については、1枚で多重起動する《コリントスの軍犬訓練士》や《カドモスの竜牙》などを搭載するが1枚の性能は脆弱で必然的にデッキパワーが落ち、デッキの中核となる短弓兵を引けない場合勝ち筋が立たない。その場合安定した勝ちを望めないため個人の評価は高くない。)
霧巨人 ヨトゥン
●
「氷河乗り」。素出しで高スペックな上に「氷河」へ乗ると一回りサイズが上がる。
癖のないシンプルなパワーカードで、HP6を等価交換するカードは現状極めて限定的であり、登用すると確実にデッキパワーを上げられる。烈火の群狼追加により対アグロ戦の安定さが抜群に向上したため、露出がかなり増えた。
雷電神 トール
●
投資コストに対してスタッツ、スキル両面に優れる大型ユニット。
HP6を等価交換するカードは現状極めて限定的であり、相手は対向に雑魚を置いてお茶濁しすることもできず、盤面に残した分スキルでダメージを重ねるため展開して失敗する局面が少ない。
カードプールがまだ少ないため、確定除去を使用させれば他のユニットが生存しやすくなるし、現状ほぼ入れ得と言えるほどパワーを持っいると考える。
氷地神 ヨルズ
闘首領 エイリーク
魔狼 フェンリル
本人の能力が稀有で、また優れているため、《大蛸 クラーケン》や《海氷巨人 フリームスルス》等シナジーの起点となることができ、今後も一線級で活躍が見込まれると予想する。投資コストに対しスタッツはやや細めだが超ヒールのお陰であまり気にならない。ターンエンド時に本人があらかじめ全快であれば回復のフローはカットされクラーケンらの誘発スキルも発動しない点は留意する。
暁光神 ヘイムダル
本人が持つスキルは大変有用。投資コストに対してスタッツが細く、HP4が心許ない。
スキル発動が被ダメージ時の為、展開したターンに即時発動する《ミョルニルの掲揚》のような奇襲性やインパクトが無いのは辛いが、現状1ターンに3以上のATKを上げられる超希少性の高いカードであるため、開発が進み回復とダメージを繰り返し大打撃を叩き出す運用ができるかもしれない夢のあるカード。
焔巨人 スルト
戦略神 オーディン
●
一枚で盤面全てにユニット展開させる大型ユニット。
相手にAoE等の有効手段がない場合は盤面を圧倒するエンドカード。
逆に相手が返しの手を用意していた場合はいきなりピンチを招きかねない大味な部分を持っているためそこをケアできれば非常に有効。
特に新カード追加からミラーマッチが激増しているため、露出が増えると考える。積むならAoEを意識して2枚積みが好ましい。
スペルカード
軽コスト(1-3マナ)
グレイプニルの束縛
ダメージはおまけで縦列の足止めに価値を見出せるかどうか。
個人が重要と考える基本的な考え方の1つに、固定された枚数の有限資産(デッキ)を使用する際、(特殊なコンボやシナジーを除いて)1枚カードを使用すれば、相手のカードと最低1:1の等価交換しなければアドバンテージを譲る、という考え方がある。
その考え方に沿えば等価交換は限定的で望み薄、単純なアド損ということになるため、冒頭に書いた通り、『氷漬け』という時間の遅行に価値はあるか。
このゲームに於いては『レーン』という概念があることから、別レーン同士で互いに対局し相手の顔を殴り合うアグロオリンポスのようなスタイルにはマッチするかも知れないが、現環境のアスガルドに速効性が優れているとは言えず、局所的なケースを除いて当カードに有効な活用手段が見出せない。
フレイの恵み
条件がキツイ分、投資コストに対して能力が破格なものの、前段の《豊穣神 フレイヤ》で記載した通り、現状盤面に出た複数のユニットが一度に負傷しているシーンというのは超限定的であるため、G・フレイヤのGPで十分と考える。
ロキの悪戯
1-2マナ帯の立ち上がり局面に於いて、対アグロではユニット展開できないことが大きなディスアドバンテージとなる。一度失った盤面の優位性とライフ差は取り返しづらく、また、その後も安定して複数の「氷河」を展開できなければ、「氷河」が作成されたレーンは無視されてしまい、初動のダメージレースで負けているため相手が展開したレーンに防御ユニットを展開せざるを得なく、対応が後手に回ってしまう。
エイルの癒し
G・フレイヤがGPにより投資コスト6-10消費して得られるライフをコスト2で即時、手軽に取得できる。取得量は見た目より遥かに高いため、延命は間違いなくできるが、どこまで行ってもライフであり、盤面に影響を及ぼさないため、重要な局面である程ドローして引いた時の絶望感。一定ライフを捧げる形で盤面に影響を及ぼすイズモ《小狐丸の反撃》のようなカードがあれば陽の目を見るかもしれない。今後のカードプール拡張に期待。
ヨトゥンの降雹
エインヘリヤルの召致
バルドルの閃光
TCGに於いて、盤面をリセットするカードはどのタイトルでも総じて強い。この投資コストでAoE2は破格の性能であり、全カードを通しても代表格のスペル。対オリンポスの低耐久性ユニットと複数交換したり、こちらの盤面の攻撃を通したいユニットがHP3以上ある場合に打ち、対向ユニットを処理して直接プレイヤーを叩くことも出来る。それらがたったの3コストで使用できるのは破格以外の言葉がない。
スカジの氷矢
アスガルドはAoEスペルに優れている一方で、個に対するダメージスペルがない。局所的に後数点足りないケアや、同マナ帯で優先的に処理したい《サテュロスの短弓兵》や《占師 陰陽博士》などの除去に役立つ。除去しきれずとも、氷漬けにより時間を稼ぐことは有用。
ダインスレイフの波動
当カードが盤面へもたらす効果は最大3/3/3となり、最大効果を引き出した場合は投資コストに対し非常に質の高い恩恵を受けることができる。
当然ながらユニットが前列に存在しない場合発動できないため、ゲームメイクの前列運用を強いられる点が行動を制限する。
前列を咎めるカードは現在数種、特にトリニティ《火竜 ウェルシュドラゴン》の打点はユニットを殲滅する火力があり、登用率も高いため警戒が必要。
盤面へ与える影響に《霊鹿 エイクスュルニル》と非常に近いものがあるがエイクはユニットであり、列指定がない点で扱い易い。
バイキングの氷風呂
中コスト(4-5マナ)
ブリシンガメンの慈愛
前段の《豊穣神 フレイヤ》で説明した通り、オールヒールが有効となるシーンが現環境では極めて少ない。
平時ユニットは元々のHPがそこまで高く設定されていないため、短命に終わる。今の環境では、G・フレイヤのGPで十分と考える。
ヘルの招来
癖があるものの、このコストで確定除去は破格の性能。癖の作用を前向きに捉えるならば、相手に一枚ドローを強要し、デッキ切れを早めるという考え方もできる。ハンド差の1枚ロスをどう解釈するかによって評価は大きく変わる。軽コストなため残りマナで複数カード使用出来る点においても個人としては有用と考える。
フレイヤの促成
4/2/2、重い。このマナ帯域は盤面を牽制し合う局面のため、ユニット展開できないのが辛い。護衛持ちとの親和性は高い。フリーになったユニットをパンプアップさせてトドメに使えるシーンがある。
ギャランホルンの轟き
当カードが使用可能となるマナ帯域は対向に無視できないサイズのユニットが出てくるような局面であり、コストが重すぎて打ったらその後追加アクションを起こすマナが残らないのは致命的に辛い。
勝手な尺度で換算するとハンドからこのカードを1枚切り、この投資コストに対して2ドローが最低ラインとすると、このマナ帯域に相手のリターンを経た上で自分の盤面に2体のユニット。ドローしてターンエンドできる程余裕のある状況じゃない。
テンポを譲らず適切に打てるシーンは超限定的で、互いの戦力をほぼ7〜8割方出しハンドが双方枯渇しているような状況に、(先にデッキ枯渇するリスクを負いながら)駄目押しで有効。それ以外の状況では8割方ハンドに腐る。
重コスト(6-10マナ)
グングニルの穿通
AoEを序盤〜中盤のマナ帯域で打てるのはルクソールに準じて、他勢力に勝る明確なアスガルドの利点であり、《バルドルの閃光》と比較した時にややコストパフォーマンスで見劣りするものの、このカードにしかない良さがある。盤面上氷漬けとなったユニットはリターンに殴ってこれないため、次ターンでレーン上取りこぼしたユニットケアに充てることや、安全に《ミョルニルの掲揚》や《水晶術師 ジアー》など重めのカードを展開する等、時間稼ぎがちょっとした隙間を埋め、態勢を立て直すことに役立つ。
ミョルニルの掲揚
盤面が更地では使いようが無いが、シーソーゲームを一気に勝ちへ導き、やや劣勢程度であればそれを跳ね返すパワーを持っている。《外科医 ベルザリオ》や《水晶術師 ジアー》が相手に展開されてやりにくいのと同じ観点から、奇襲性が高く相手の計算を大きく狂わせるパワーカード。最大8/12/12のバンプアップは驚異の一言。小型をジアーで強化するタイプのデッキと特に相性が良い。 アスガルドのアイデンティティを感じるカード。
オーディンの軍略
盤面展開のスタッツが計9/9/9なためデッキパワーが上がる。『レーン』という概念の下、《離魂術師 サナム》や《ピクシーの王女 ターニア》同様、一度に複数レーンを展開し押し付けることは対応が取りづらい。
HP3なのでほとんどのAoEを耐えるが、このマナ帯域は《ホムンクルスのサルファー》、《火竜 ウェルシュドラゴン》が控えている時間軸であり、展開されると一網打尽でピンチに落ちるリスクをはらんでいる。
コストが重く同ターンに複数カード展開するマナが残らないため、縦列に対応できないことは辛い点。
個人の考えとしては、8マナ以降のカードは即時、直接的に相手のライフ削りへ寄与したり、または相手の盤面を除去する、展開から自ターン内で結果の出るカードでないとどこか大味で、リターンのしっぺ返しを想像してしまい扱うのが怖い。
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〈用語集〉
・tier1(ティア):現環境の中で最適化されたトップレベルのデッキ。人口が一番多いと解釈しても問題ない。ミッドレンジオリンポス、コントロールルクソールが挙がる。評価の際、環境面で考慮。
・AoE:(Area of Effect)全体攻撃
・GP:ガーディアンパワー
・スタッツ:ステータス
・スペック:総合的な能力
・バニラ:特殊な能力がないユニット
・ハンド:手札
・メタ:特定のデッキ(またはカード)に対する対抗策及びそれを実行すること
・ファティーグダメージ:デッキが0になった時にドローすると発動するダメージ
メシーカ環境、アスガルドのすゝめ
メシーカが参入してからおよそ一月が経過した。
今環境におけるアスガルドの立ち位置と自分なりの理解を一度この場で整理したい。
以下の文章はいずれも個人の見解であり、誘導性をはらむ内容も多くあるため、情報の取り扱いについては留意していただきたい。
この投稿がアスガルドを使う方たちに少しでも助力となる事を願う。
〈メニュー〉
全体的な所感〜冬の時代到来〜
今環境はアスガルドにとって苦難を強いられる状況になっている。敢えてここは希望を残し曖昧な表現をするのではなく、“厳しい”という個人の見解をしっかりと提示しておきたい。
理由は明確である。アスガルドの強みを叩きつける環境では無いからだ。
アスガルドの強みとは何か。代表的な特徴の1つに“耐久性”が挙げられる。前環境のアスガルドはガーディアンをライフ回復しながら中盤までシーソーゲームをしかけつつ、終盤にかけて高耐久のファッティを繰り出すことによって盤面を固めることを得意とした。
では何故その強みを誇示出来なくなったのか。それはルクソールの復権に起因するところが大きい。
テュールのナーフやまともなカードが今回追加されなかったことは相対的弱体化に繋がっていることは言うまでも無い自明の事実である。
だがそこに輪をかけて今回ルクソールの序盤超強化が施され、ルクソールの露出が急激に増えた。今のルクソールは極端な話ベリザリオを積んでおけばなんとかなった初期とはワケが違う。
個人が提示する見解は詰まる所、『対面意識にアグロとコントロール、その2つを見なければならなくなった』ということだ。
各勢力の状況
ここで一旦アスガルド以外の勢力所見を「戦略」にフォーカスして簡単に列記したい。
オリンポス
オリンポスは全スキルを通して見ても頭一つ抜き出ている「速攻」を引っさげて今まで通り戦えば全勢力に対して一定以上の戦果が上げられる。そのスタイルがコントロールに対し滅法強いのは自明で、勢力が持つ強みを押し付けることがそのまま勝ちへと繋がるのだから、シンプルだろう。
イズモ
イズモは若干傾向が異なるが属性としてはオリンポスと似たスタイルにカテゴライズして差支えない。
特徴の1つ、「バウンス」は優秀な小型軍と相まって嵌るとどうしようもない理不尽を相手に叩きつけることができる。
序〜中盤に速さでオリンポスと力負けしないイズモはメシーカカード最強のケツァルコアトルをスマートに使いこなす恩恵を得た。地形生成というとても大きな課題を克服できたのは序盤しっかり盤面を構築できる力がイズモにあるからだ。
ルクソール
ミイラの兵長とセシャトに代表される今回の序盤超強化はコントロールしかアーキタイプの生き残れなかったその傾向すらも大きく変え、アグロやミッドレンジのアーキタイプを生み出す大変革が起きている。デッキタイプも王道の他に【壺型】、【メネス型】、【砂漠型】と実に多岐に渡り、そのどれもが強い。
今回の追加がルクソールに与えた恩恵は従来の致命的な問題であった、中・高速寄りの相手に対し序盤に取り返しの付かない致命的なダメージを抱えることを払拭している。
結果、王道コントロールは対アグロ寄りに対しいい勝負をし、対コントロールへは優位性を加速させ強みを誇示できる状況になっている。
トリニティ
トリニティは序中盤うまく耐え忍び、後半にかけて盤面を取り返して行くコントロール型を得意な傾向とする勢力なため、抱える問題は現在のアスガルドと同じことが起きていると考える。勢力の持つ強みと個性は誇示できず、対面意識にアグロとコントロール、そのどちらも見なければ行けない状況だ。
トリニティの持つ特徴の1つに「ランプ」があるが、ルクソールの増えた今の状態は有効となるランプの活用術がかなりあやしい状況下で蛇足となる場面が度々あり、ランプ抜きも1つの選択になっている。
同系の似たような境遇に立たされるアスガルドは回復と耐久性に優れるため対アグロに対し一定以上の強さがあるが、既存プールの持ち得るランプや鉄壁の個性が何に対して一定以上強いのか、申し訳ないが私には分からない。これはトリニティを愛する方への暴言ではなく、バランスを作っている開発側へ強い疑問の投げかけである。
対面意識とその解決の模索
各勢力の戦略について触れたところで今回投稿する内容の本題に入る。環境を席巻するオリンポスとルクソールに対する解決だ。冒頭で述べたように私の見解は厳しいの一言。だがそこで諦めと紐付けせずアスガルドを好きな身としてどこまでも最後まで解決を模索し続けたい。
対オリンポス
基本的な戦術
対オリンポスは構築段階で持ち前の回復力を生かすことは当然ながら、バトル中《ケウラノスの制裁》はよくよく意識した方がいい。意識してどうにかなる代物でないのは確かだが、対面にアレースをはじめとした高ATKを残したまま、こいつでブロックできるだろ、と防御ユニットを展開して終えると制裁を打たれ思わぬ失点からそのまま負ける。
カードプールはメシーカによって大きな変化は起きていないため、対面では制裁を打たれた場合どうなるか、をよくよく考え立ち回ることが重要。
構築の勧め
AoE、シギュンや炊事番がとても有効なのは初期と変わらない。
1:複数交換が見込めるハスカールもいいだろう。
ここでは対アグロ寄りに対しアスガルドは一定以上の解決材料を持っているため、ルクソール意識の上でどれだけ回復や序盤の展開にリソースを割くかを検討する必要がある。
対ルクソール
基本的な戦術
現環境のルクソールは冒頭から説明している通り、序・中盤に驚異的な戦力を得た。それらによりもたらされる本当の脅威は、アメミットやファラオマスクに代表される後半の直接ダメージだ。序・中盤に失点すると後半ルクソールの時間になりそれらが展開された時、不思議なほどあっという間に負けることになる。序・中盤、その失点と引き換えに得た相手への打点はどうせアメンやマスクによって無かったことにされるのだから、最初から全力で守るべきである。
確定除去は基本的にアメミットとカオスキメラ以外に打つべきではない。アメンはサルファーでクリアしよう。これは構築でもあるが、立派な戦術の最適解だ。
そうして相手のデッキ切れまで戦うことが多い。
構築の勧め
ガーディアンイシスの露出が多いため、初期環境同様にベリザリオは相手の計算を大きく狂わせる切札になることがある。
サルファーは中途半端にウザったいアメンを消せるため有効。
アメミットは絶対に放置できないので確定除去に幾つかはリソースを割くべき。長期戦必至な現状ではファティーグダメージを早めるヘルの招来を勧めたい。
全勢力へ有効となるカード
オリンポスとルクソールを含める全勢力へ対し有効となるカードを挙げたい。初期より露出の多い優秀カードは省略。
《エイルの癒し》
このカードはアグロに対する解決の一枚であるが、ルクソールの得点力が増したことで採用理由がシンプルになった。個人的に二枚は邪魔になるが一枚はかなり有効となるケースが多いと考える。
《ヨトゥンの降雹》
コアトリクエの大石像に代表される一部、放置するとゲームがそのまま決まってしまうカードへ対するメタとして、地形破壊は何かしら採用した方がいい。しかし地形破壊はその性質から腐りやすいのも事実で、このカードは比較的汎用性が高く使い勝手が良い。
《彷徨える石像》
このカードはアグロに対し確実に1ターン延命してくれる点と、AoEに耐性がある点で実に環境へ適応していると考える。
《コアトリクエの大石像》
環境が煮詰まり地形破壊が当然になれば評価は変わるが、現状対策がなされない場合そのままゲームを決めるパワーを持っている。対アグロには出す暇無いだろうが、現状一枚は入れておいて損はしない 。
デッキ紹介
1つ自身の使用するデッキを載せておく。さらなるアスガルドの発展があれば良いな、と思う。スペルが多すぎるのが課題。もっと肉を入れたいのだが絞り切れずにいる。棟梁が若干芋くさい。シワテテオは見た目よりやる子。大石像一枚アウトは安定だと思う。さて、何を入れるか。禁忌とジアーが喧嘩する。それにつられて棟梁とリッチロも空回ることがある。棟梁はジアー、禁忌持ちハンドなら前列に。リッチロがハンドにある場合はよくよく展開先考えたほうがいい。ウルモル邪魔してリッチロ出せずに泣く場合がある。
最後に
今期のアスガルドから見たルクソールの強大さは本当に強烈で、理不尽に感じることもある。先ずセシャト以上に《ミイラの兵長》があり得ないくらい強い。サナムの対向に置かれたら兵長とイシスGPで無力化されるとか悲しすぎる。こっちもカード一枚切ってるしね?とか言う話ではない、お前もサナムを使うだろ。
最初期からアスガルド軸でやっている私にとってイシスにはヘイトが溜まる一方である。(ルクソール好き、イシス好きの方を否定する意図はない。が、アナザーストーリー執筆中に一番苦労したのはイシス回である。脳がイシスを拒否している。)
ただ、今回のルクソール超強化を好意的に捉えている側面もある。それはオリンポスを主とした対アグロ寄りにルクソールが戦えるようになったことだ。今までが戦えなさ過ぎた。初期オリンポスにとってルクソールはほぼほぼ餌だった。限定的にオリンポスとルクソールの関係を見たら今くらいのパワーバランスが丁度いいと考える。
それでも今回、アスガルドやトリニティがそれに追随する手段をもちえなかったのは残念に思っている。アスガルドで言ったら貴重なプール追加枠がバイキングにかなり持っていかれ、そんなものは現状ウルモルと同じくらいファンデッキに寄っていて使えない。高コスト払ってバイキング1/1強化して何があるんだ、って言う。何もないよ!
当然注視していると思うが、デヴェロッパーにはメシーカの勢力固有カードがどの位の使用率なのか出来ることならユーザーへ提示が欲しい位だ。求めているのは未来的に使えるかもしれないカードじゃなくて今の環境で遊べるかどうか。死にカードが多すぎるでしょ。
以上。
とは言え、私はアスガルドが好きなので軸はずっとこのまま、今環境は悩みながら過ぎて行くでしょう。苦楽を共にして真の歓びがあるってね。
【非公式】メシーカ アナザーストーリー 第4部
これは主の頭の中の妄想を膨らませた非公式のメシーカ。アナザーストーリーであるー。
目次
16.信仰
ー。
場所はメシーカ丘陵地帯。トール達が海岸地帯を出立し三日程経過した頃、ラファエルは単身その場所に居た。地に生い茂る草花は風の抱擁を受けて耳障りの良い呼吸をそよそよと続けている。ここは生命の活力で溢れ、太陽が向ける陽の光はとても温かい。
「ミカエル、やはりここに居ましたか。」
ラファエルが正面に見据える先、甲冑の天使は居た。彼の精神を縛る念が鎖へと具現化し、背に絡みついて純白だったその翼は漆黒へ変質している。
「断っておきますが、私は貴方がどうなろうと構いません。しかし貴方は救世主様を守る使命も全う出来ず、こうも堕落している。これでは我が領土の名折れです。その罪、しっかりと償って頂きます。」
ラファエルは派遣された断罪人が如き口調でミカエルを罵った。見詰める目は氷のように冷たく温情を欠片も感じられない。
「グギギぎっ、ラファエルッ!貴様!良くぞ我が眼前に姿を現した。我の姿が見えるか、俺、俺だ、俺を見ろッ!この気高きの翼をッ!この大地のパワーが俺をさらなる高みへと昇華させてくれたッ!もう、貴様には負けん…!」
ミカエルは精神を大きく乱すものの、アテナとは異なり自我をほとんど残していた。無論、ハデスらがアテナと戦い得た知識をラファエルが知る由は無く、素行まで醜悪になったか、としかラファエルは思わない。
「我に挑んだ愚かさを悔いよ…!行くぞ!ラファエルゥうう!!」
怒号と共にミカエルが空高く腕を突き上げ、未知の呪文を詠唱するとラファエルの足元に地獄の門が顕現した。
《ルシファーの冥門》
時間差のある確定除去
(これは…。)
地中より出でた冥土の死神がラファエルの身を掠め取ろうと大きな鎌を振り抜く。ぶぉん、という鈍い音が空間を切り裂き、その軌跡は虫の息すら残さない。
……、…、…。
死神が繰り出した一閃の先には刈り取られた歪みを残す空間。そこにラファエルの姿は無い。ミカエルは手応えを感じ、空高く咆哮する。
「うォおお…!やった…、やったぞ…!」
「何をやったんです?私はここですよ。」
間髪なく返ってきた声の先へ目を戻すと、ラファエルが不敵な笑みを浮かべ先程と同じ位置に立っている。ミカエルは思わずぎょっ、とした。自身が召喚した死神が消えている。
「貴様っ!何処へ隠れた!ええい、もう一度だ、出でよ地獄の門!奴を呑み込め!」
《ラファエルの慈雨》
地形生成スペル。デメリット地形の上書きもできる
「…ッ?!」
今度は召喚された門が一瞬にして消失してしまった。ラファエルが何かをした様子は無い。その場で変わらずに立ち尽くし、笑ったままである。
「貴様…!何をした…ッ!」
ミカエルは全身で怒り、ラファエルを睨むことしか出来ない。両者の実力の差は歴然であった。
「怠惰ですね。貴方に一つ、教えを与えましょう。」
《ベリアルの幻炎》
トリッキーな盤面依存除去スペル
ラファエルが呆れた様子で髪を一つ搔き上げると、その刹那ミカエルの身は炎で焼かれていた。ミカエルには何が起こったのか分からない。
「ぐ、ぐぉおお…!」
全身を覆った猛々しい炎はミカエルの情念に冷水を浴びせ、思考を停止させる隙を作り出した。
「貴方は私達の領域で、一体何を学んだのですか。貴方の正義とは。貴方の信仰とは、一体何なのですか。」
ラファエルの言葉がミカエルの心の核に入り込んでくる。
「貴方が是とした正義を、信仰を、何故信じてやれないのです。私が今やったことは貴方にだって出来て当然。未来を今に置き換える時間の操作です。私達の大いなる信仰によって獲得した力はこれ程までに偉大で、一途な信心の成せる技。それを一時の情で薄汚れた異界の力に身を堕とし、これまで積み上げた物を全て捨て。それで真の高みへ登れるとでも?恥を知れッ!」
《聖樹の杯》
トリニティランプの顔となるスペル
ラファエルには信仰を捨てたミカエルが許せなかった。発せられた声は諭しの文句の裏、煮え滾る怒りであふれている。
(そうか…。俺は…。力を求めるあまり道も半ば自分の正義を捨てたのか。)
(俺はお前に勝ちたかった。ガブリエルにも。俺は誇れる自分で在りたかったんだ…。)
失いかける精神の中でミカエルは自らの心の弱さを悔いた。燃え盛る炎に身を焼かれながら自らの欲とその咎に気付いたミカエルの身が発光し、彼を縛っていた鎖と黒のオーラが宙へ霧散しはじめる。そんなミカエルの異変にラファエルは気付きながらも、呪文は解かなかった。そのまま彼方へと葬るつもりなのだ。
ーッエイルの癒し!
《エイルの癒し》
高密度のライフ回復スペル
「ーな…ッ!」
ラファエルが咄嗟に振り返ると、そこにはトール達が居た。ミカエルを焦がした炎がフレイヤの癒しによって見る見るうちに浄化されていく。
「余計なことを…!」
ラファエルは怒りで顔を硬直させている。
「おい。お前。ふざけるなよ!!」
トールは出合頭に拳でラファエルの顔をぶち抜いた。鮮血を風が運んでいく。
「お、俺は…、助かったのか…。」
「ひぇ〜。今のはマジ危なかった、姉さん、毎度ッ!ナイスフォローっス!」
命拾いしたミカエルの様子を見てアヌビスが安堵の溜息を吐いている。そんな中トールとラファエルは睨み合い、互いに沈黙したまま対立し合う。言葉にせずとも互いの気持ちは両者に伝わり、相容れず、どうやら両者の間には決定的な溝が出来たようであった。
そうしてトール達一行は蒸発したラファエルと守護神ミカエルを回収することに成功したのだった。
17.本懐
ー。
一行がメシーカに上陸してから七日目の早朝。トール達は山岳地帯を飛行していた。切り立つ山々は立ち込める濃霧によって視界が奪われ、来訪者に厳しい表情を見せている。ここでは光のほとんどが遮られてジャンの透明能力が役に立たないため、一行は生身で歩を進めていた。トリニティ領の者も付かず離れずな距離を保ってトール達の後を付いてきている。
「直に特異点到着だ。この辺りァ、視界が悪りィしワイバーンの巣がそこらじゅうにあるから慎重に進めよ。」
ケツァルコアトルが警告する。辺り一帯をグワァ、グワァ、というワイバーンの奇声が木霊してその音は止むことがない。一行は奪われた視界の中、いつ何処から飛び出してくるか分からないワイバーンの存在に、冥土の入口へ片足を突っ込んでいるような感覚に襲われた。一行は五感を高め周囲を警戒しながら少しずつ進む。
(チッ、ワイバーンの野郎、やけに殺気立ってやがる。一体何が起こってンだ。)
異様な空気の中、幾つかのワイバーンの巣を素通りした先にかの侍は居た。
「スサノオ様…っ!」
ウズメが声を掛けるも反応がない。その出で立ちは全身赤いオーラで染まり、幾多の数え切れない戦を潜り抜けたであろう様子をまざまざと見せ付けるように鎧の部位はボロボロに傷付き、本人も多くの血を流し息を荒げて居た。スサノオの横にはワイバーンの骸が数体だらしなく転がっている。ケツァルコアトルはそれを見るなり事の原因を理解した。未知なる生物が突如自分たちの縄張りに現れ同胞を食い散らかしていることに、ワイバーン達は膓を煮えくり返らせているのだ。
「スサノオ様!」
ウズメはスサノオの正面に回り込み、彼の目をじっと見詰めながら声をかけ直した。
「ゼェ…ゼェ、なんだ、新手か?」
「私です、ウズメです…!スサノオ様をお迎えに参りました!」
ウズメはか細くも芯の通った声で自分の存在をスサノオへ伝えるが、スサノオは錯乱状態にあるらしくウズメを認識できないでいる。
「切っても、切ってもお前らウジャウジャと湧いて来やがる。いいぜ、まとめてかかって来やがれ…!」
スサノオは取り付く島もない様子で怒気を周囲にピリピリと放り散らし、狂戦士となってウズメへ突進して来た。
振りかざすスサノオの剣は雷のように空を断裂する。ウズメはそれを軽やかな身のこなしで辛うじて躱すが、スサノオの殺気に気圧され恐怖に足が竦んでしまう。
(こ、怖い…。)
スサノオは容赦無く二の太刀、三の太刀をウズメに向け続ける。ウズメは躱すのが精一杯で反撃に出ることが出来ない。
「ダメだ、やっぱり俺が行こう。」
二人の応酬に見兼ねたトールはウズメの下へ駆け出そうとしたが、フレイヤがそれを止めた。
「あなたが行っても何も解決しませんわ。これはイズモの、ウズメさんの戦いです。」
でもよ、とトールは言いかけたが、迷いの無いフレイヤの表情を目の当たりにして思い直し、戦いの機微を見守ることを選んだ。
(きっと、私がスサノオ様にできることは何ひとつ無い。それでも…逃げない!)
ウズメは幾許か逡巡するも、自身に退路など端からないと理解していた。あとは自らを奮い立たせる“助けたい”という想いの丈をぶつけるのみ。
「スサノオ様。今のウズメの全力、受け止めてください。参ります!」
ウズメは覚悟を決め、前に出た。スサノオがウズメの意気に呼応し深く太刀を踏み込んでは、ウズメがその攻撃をひらりと躱し、或いは受け流して二つ三つとスサノオへ傷を付けていく。その華麗な身捌きは蝶が舞うように優美でどこか儚く、命のやり取りが行われていることを忘れさせる程に洗練されている。
「やるじゃねえか。でも太刀が浅ぇんだよ!」
スサノオの怒りは最高潮に達し、ウズメを圧倒した。繰り出す剣圧は逃げるウズメの身体を搦め捕り、重篤な傷を負わせる。
「きゃあ…っ。」
トールがもう我慢ならない、と思うより先に身体が動き出そうとしたその刹那、二つの影がスサノオを強襲する。
ーグワァッ、グワァッ!
ワイバーンであった。その二つの個体は通常のワイバーンの体躯をゆうに超えていた。変異種である。
「マズい、あいつァワイバーンの王族だ!」
咄嗟にケツァルコアトルがそう叫ぶ。羽ばたきが起こす風圧は嵐のように抗い難く、その眼光は自らの縄張りを荒らす土着者に対して強烈な敵意を剥き出している。
二匹のワイバーンはスサノオ目掛け一斉に炎を噴き出した。スサノオの足元に伏せるウズメは深い傷で逃げる事が出来ない。
「ウズメーッ!」
トールの咆哮が木霊する。スサノオは押し寄せる焔に刮目した。刹那、業火が二人を包んだ。
ードォーン!
「そ、そんな…ウズメさん…。」
アヌビスはそれ以上言葉を継げないでいる。絶体絶命とその場にいる誰しもが思った。黒煙が次第に晴れていく。視界が晴れた先には、炎から全身でウズメを守るスサノオが居た。
(俺は何の為に戦ってるんだ。)
(何の為に力を求める。もっと強え奴と戦って、倒して、倒して、修羅の先に何があるってんだ。)
炎に包まれる刹那スサノオは逡巡し、落とした視線の先にはウズメが居た。
(ウズ…メ?)
(そうか…俺は…。こいつらを守るために強くなる、って。そう、決めたんじゃねえかよお!)
スサノオは窮地を前にして、自身が力を求め続ける中で見失った武士の本懐を取り戻したのだ。
「わりぃ、俺のせいで沢山傷つけちまった。すぐ片付けっから、ちっと待ってな。」
ウズメは辛うじて保った意識の中、いつもの凛とした表情のスサノオを見て安堵し、涙を流しながら首を縦に振った。スサノオはそんなウズメを優しくギュッと抱きしめると、ワイバーン二匹を正面から見据えた。
刀を両手で中段に構える。そこからワイバーン二匹が骸となるまで三秒とかからなかった。スサノオは二十メートルはあったであろう対象との距離を一の踏み込みでゼロにし、神速で刀を振り抜くとスサノオの背はワイバーンの鮮血で赤く染まっていた。肉塊が地に落ちぼたぼたと音を立てている。
「すまねえ、迷惑をかけたみてえだ。ムシが良くて悪りぃがウズメのこと、介抱してくれると助かる。」
スサノオはトール達に詫び、助けを乞うた。
「承知しました。一先ずこの場を離れましょう。」
フレイヤが周囲に充ち満ちる殺気を警戒して言った。そうしてウズメはスサノオを助けることに成功したのであった。
18.思慕
ー。
一行がメシーカの地に降り立ち九日目の昼。トール達は砂漠地帯を飛行していた。この辺りは陽が差す内は万物が灼熱の熱線に照らされ、また夜になると極寒へと表情を変える命を有する者にとって過酷な環境になっている。生命の活動は酷く制限され、トール達にとっても長居は出来ないと思わせる世界であった。
ジャンが暑さに弱ったため、一行は彼方まで延々と続く同じ景色を生身で進んでいく。
「みんなヘバッてますねえ〜。おいらにとっちゃこれがホームだから、なんとも思わねぇや。」
一人アヌビスだけが普段と変わらぬ様子で、周囲を茶化している。彼なりに皆を元気付けようとしているのかは分からないが、フレイヤから見てアヌビスは普段より口数が多く、また意味のない言葉ばかり発しているように受け取れた。
「イシスも普段スカしてる癖して迷惑かけますよ、ホントにも〜。」
「…直に特異点だぜ。イヌっころ、気ィ引き締めな。」
ケツァルコアトルが弛緩したアヌビスの様子を気にかけるように声を掛けた。
ほどなくして一行は特異点に到着した。しかしイシスの姿は見当たらず、確認のため全員で地上に降りる。すると突然地中より、ずぼっ、ずぼっ、と手が現れ一行を取り囲んだ。
「これは…ミイラか!」
《ミイラの兵長》
メシーカ環境のキーユニット
ミイラは乾燥した人体の骸に悪霊が取付き、たとえ手足が捥げようとも魂魄を引き離さない限り活動を辞めず無限に対象を襲うモンスターの一種である。一行が降り立った先を無数のミイラが包囲し、迫ってくる。ミイラは動きこそ緩慢であるが一度掴まれたら二体、三体と後続が対象を掴んで生気を吸い取り、蝕んで行く。重度の傷から回復して日の浅いウズメやミカエルにとっては数が数だけに十分脅威となり得た。一同に緊張が走る。
ーピューゥ…ッ。
突然、音として微かに認識できるその合図で、ミイラ達の動きが止んだ。それはアヌビスの力によるものだった。号令を受けたミイラ達はこぞって地中へと還って行く。その統一された指揮は実に鮮やかであった。
「ふぅん。やるじゃない。折角楽をしようと罠を張ったのに無駄になっちゃった。アンタだったのね…アヌビス。」
イシスは初めからその場に居た様子で、砂の背景の中からじんわりと具現化し、姿を現した。イシスも例に漏れず黒の瘴気を身に纏い、死者の魂魄が彼女の周囲を彷徨っている。
「ミイラはみんなおいらの仲間っスからね。それよりイシス、おいらが判るのかい?」
ミカエル戦を目の当たりにしていないアヌビスにとってはハデスから得た“自我を失った守護者”という前知識があったため、自分を認識できるイシスに安堵した。
「分かるわよぉ、あんた、アタシを嵌めたアメンのイヌのアヌビスでしょ。」
「分かってるなら話が早くていいや。イシス、救世主は何処に行った?とっとと戻ってお前の仕事をしてくれよ。」
アヌビスは手放しでイシスの下へ駆け寄ると、イシスが放つ不穏な雰囲気に気付き、ゾッとする。
《アペプの詛呪》
新環境でアグロタイプに採用される直接ダメージスペル
「ぐっ…。」
アヌビスはイシスの唱えた面妖な呪文によって毒されてしまう。
「あは…あははっ、あははははッ!バカね、アヌビス。戻るわけ無いじゃない。面倒くさい。“アイツ”が何考えてるのか知らないけど興味も無い。アタシはここで適当に一人の時間を満喫するわ。」
イシスの狂気が顔を出した。イシスはやっとつかみ取った暇に羽根を伸ばすような口振りでケラケラと笑いアヌビスを馬鹿にしている。
(だからこいつと戦るのは嫌だったんだ…ヤリづれぇったらありゃしねえ…くそっ。)
「ふぅ、アンタたちを追い返せば、アタシはずっとこのまま。アンタに興味なんてないけど、邪魔をするなら消えてもらうわよ!」
そこからイシスはアヌビスに向け幾多の呪文を浴びせはじめる。疫病、呪い、枯渇、あらゆる攻撃がアヌビスの体力を奪って行く。
「おい、ビスケ、なんで反撃しねぇんだ!やられちまうぞ!」
トールが我慢できず声を張る。
「…へ、へへっ。」
アヌビスは笑ったままイシスの攻撃を受け続ける。
「あら、それで本気?」
「続けて行くわよ!」
「ふふっ、ごめんねぇ〜。」
《ファラオマスクの呪い》
盤面無視の直接ダメージでルクソールを代表するスペル
「ぐぁあああー…ッ!」
アヌビスは窮境にいよいよ膝を付いた。
「もう、何なのよ、アンタ!」
イシスはアヌビスの戦意無くただ自分の攻撃をサンドバッグのように受け続ける様子に苛々していた。かといってアヌビスに降伏する気配はない。
「お…おいらは、オンナにゃ手を出さねえのさ…。」
アヌビスはボロボロになった身体で不敵に笑い、そう言った。
「あら!そう!じゃあ、とっとと消えなさい!」
イシスはムッとして渾身の一撃を放とうと詠唱を始める中、アヌビスは決死の覚悟で懸命に言葉を繋ぐ。
「イシス、お前は無関心なんかじゃねぇ…!傷付くのが怖くて、無関心を装ってるだけだ…。」
「何を言ってるの?意味がわからないわ!ムカつく!」
イシスは思わず詠唱を止め反駁を差す。その様子はイシスの心が透けて見える程、顔を赤らめ明らかに戸惑っていた。
「だってそうだろ…。ルクソールでおいらはお前をずっと見てきたんだ。旅の仲間、お前にも居たろ。素直になりやがれ…!」
イシスはアヌビスの言葉に感化され、過去の思い出に思考を巡らせる。だがそれを途中で辞めると、鬼の形相でアヌビスを睨みながらイシスの手中で魔法陣が完成した。
(へへっ、もう、どうとでもなれや…。)
アヌビスは死を覚悟した。イシスの唱えた呪文は大きく発光し、アヌビスとイシス自身を包んで行く。
「ここは…あの世かな?」
アヌビスが恐る恐る眼を開く。傷ついたはずの身体は痛みが消えてむしろ何処か心地良い。
「バカね、死んでるワケないでしょ。」
イシスは聖母のような眼差しでアヌビスを見下ろしている。イシスが最後に唱えた呪文は癒しのものであった。
イシスはこれまでに数多くの計略や政治に翻弄されてきた。裏切り、嫉妬、猜疑。そんな負の感情に触れる中で繊細な彼女はいつの日か心に蓋をする。心が決して傷付かないように。それが彼女から無関心を生み出した。ずっと孤独に一人、誰にも理解されることもなく拒絶を選択してきたイシスにとって、アヌビスの言葉は何処か優しく、温かみがあり心の琴線に触れた。
「オシリスのヤツ、お前のこと心配してるぜ。あの人、妹のお前が大好きだからさ。」
アヌビスはへへっ、と笑ってそう言うと、バカね、と言ったイシスの頰には一つの雫が伝っていた。イシスはとっくに自分の弱さに気付いていたのかも分からない。他者を信用せず、傷付くことを怖れ、自分では無い他の誰かが手を差し伸べてくれることを待ち続けていたのだ。いつの間にかイシスを取り巻く負のオーラは綺麗に消失していた。
そうしてアヌビスはイシスの心を取り戻すことに成功したのであった。
19.決起
ー。
地脈から溢れ出す大地のパワー。その熱気は照りつける日射し。または噴き上げる突風。トール達は第五の特異点近くに居た。一行がメシーカに上陸してから十四日目のことである。
やっぱりここだったか、ケツァルコアトルは頭を掻きながらうんざりした様子で開口一番そう切り出した。
「この地はメシーカの中でも屈指のいわく付き名所で、あの世とこの世を繋ぐ黄泉への入口になってるって言われてんだ。土地守りの俺たちでも滅多なことが無けりャァ、近づかねェ。トール、お前の友達は一体どんな奴なんだ。」
一行は遥か彼方、地の底を確認するように見下ろす。この脇から勢い良く落ちる滝の底に侵入口はあると言う。自然が作り出した巨大な穴の底からは神のみが分かる微かな線で死者の呼び声がおぞましく聴こえてくる。
「ただの捻くれた野郎さ。」
トールはロキの放つ禍々しい気を確かに感じながら短くそう答えた。
メシーカを巡り、一行に分かったことがひとつある。操られた守護者たちは皆、自身に所縁のある、その者が一番パワーを引き出せる場所に縛られていると言うことだ。操者の意図は相変わらず見えないが、この因果が重大なことであることは明らかであった。
着陸すべくジャンがゆっくりと高度を下げる中、フレイヤは束の間の回想を巡らせる。それは縛られた守護者の浄化についてだった。
フレイヤは冷静にこれまで救った守護者のことを振り返った。整理するとハデスが言った通り、守護者の全員が漏れなく心に闇を抱え、その原因や解決の手段はバラバラであった。
海洋に居たアテナは、仲間を護りたいという一途な想いの裏で他者から認めてもらうことを強く望み、その心の孤独がアテナの身を闇へ落としたがハデスの理解を得ることで心を取り戻した。
草原に居たミカエルは、力を求める余り自らの正義を捨て闇に身を染めたが、ラファエルの圧倒的な信仰の強さを前に自らの過ちを認識する事で心を取り戻した。
山岳に居たスサノオは、自らの大切な者を護り抜く為に力を求めてきたが、修羅の世界に身を置き続けることでいつしか戦いの動機を失ってしまう。それが彼の身に闇を落としたが、決死の覚悟で身を挺したウズメによって思い出し、正気を得ることができた。
砂漠に居たイシスは、塞ぎ込んだ繊細な心を無関心という仮面で偽りつつも、言い知れない孤独と虚無。愛を心の内で渇望しそれが彼女を闇に引きずり込んだが、アヌビスの掛け値無い捨て身の行動によって自らが作り上げた孤独が幻想であったことに気付き、闇を払った。
その救出の全てがどれも奇跡と呼べる賜物だった。ただ倒せば良いという訳では無い、と言ったハデスの言葉が今なら理解できる。ミカエルのケースのように、単純に力を誇示することが結果的に正解だったということはあるだろうが、アテナのケースではミカエルと同じアプローチを取っても決して彼女を救うことは出来なかったであろう。また、操られた守護者の精神状態も様々だった。スサノオのように有無を言わさず襲ってくるような錯乱状態もあれば、イシスのように自らの咎まですら、自覚しているような冷静を保つケースもある。果たしてロキがどんな闇に身を堕とし、どんな精神状態であるのか。叡智に長けるフレイヤを以ってしても、推し量ることは出来ない。
ーああ、ご苦労だった。脱出手段は用意できたぞ。ゲートは依然あのまま、今のところ変わった様子はない。次はロキだな。
アヌビスがハデスと念話で突入前の連絡を取っている。
「そうっス、ええ、ええ。じゃあ、入口着いたんで、また。」
一行は洞窟の入口に到着した。トールには不思議と、これが最後の戦いになる予感があった。無論、神たちが救世主と呼ぶマキナや、イアソン団の依然足跡は掴めていないのだが。そしてその勘は程なくして現実のものとなる。
トールは侵入前に後ろを振り返る。そこには最初フレイヤ、ウズメ、アヌビス、ハデスに自分を加えた五名で始めた旅が、ケツァルコアトルとジャンの協力を得て仲間のほとんどを回収し、いつの間にか大パーティとなっている。各々その場にいる理由は違えど、元にいた世界へ帰る目的は一致している。
よし、とひとつトールは気合を入れた。全員で帰る。目的は変わっていない。必ず、果たす。トール達は決意を胸に、地獄の入口へ入って行った。
20.決戦
ー。
一行が洞窟へ侵入してから数刻。トール達は戦いの渦中に居た。骸が異形な怪物へ姿を変え、襲いかかってくる。闇から出でるその骸は倒しても、また別の魂が輪廻して復活を遂げ、延々と攻撃してくる。その数は暗闇で正確に判断できないものの、百をゆうに超えていると思われた。
ーカカカカカ。ニク、ニクダ。ヨコセ、ニク!
「キリがねぇ!兄貴、先へ行ってくれ!俺たちがこいつを引き付ける!」
アヌビスが救出した守護者達と共に骸を煽動し、トール達を送り出す。この骸を繰り出す元凶がロキであると睨むトールは、すまねえ、と言い残し先へ進んだ。
「またかよ!」
ーグルォオオゥアア!
アヌビス達と別れてから入り組んだ迷路を数百メートル進み、細く崩れかけた天然の橋を通って少し広まった空間に出ると、今度は異形の獣がトール達を取り囲んだ。
「ここは私たちが引き受けましょう。勘違いしないで欲しいのですが、これもデュナミスへと無事に帰るため。貴方は貴方にしかできないことを行なってください。」
今度はラファエルがウズメと共に残ると言い、トール達を送り出した。ウズメが敵を引きつけ、その隙にラファエルが目にも留まらぬ速さで数多の呪文を詠唱し、獣達を片っ端から殲滅して行く。トールは後ろ髪が引かれる想いを抱きながらも、折角の意気を無駄にしない、と思い直しロキの元へと急いだ。
トールの下には、フレイヤとケツァルコアトルが残った。青白く光った松明が入口を飾る空間へ足を踏み入れると、そこにロキは居た。
「遅かったなぁ、トールよ。待ちわびたぞ。」
ロキはやはり冷静で自我を保っていた。ロキの瞳は妖しく光り、生前の原形が分からない無数の魂魄がロキを守るように漂っている。その背後ではトール達が知り得ない未知の魔法陣がいくつも設置されている。どうやら無限に現れる骸や異形の怪物はこの魔法陣によって生成されているらしい。そのからくりは見て取れる様子から、生者の命を魂魄へと転換させ、その魂魄を怪物たちへ入れることによってその活動を延々と循環させるというものであった。正真正銘、悪魔の装置である。
「ロキ、てめぇ、許さねぇぞ!」
トールは起きているおおよその事態を把握し、ロキを睨みつけた。
「はて。何に怒っているのか分からぬぞ、トールよ。俺は俺の楽しいと思うことをやっているだけだ。俺の中の関心事が救世主からこの大地を滅ぼすことに変わっただけさ。」
ロキはさも当たり前のように毅然と自分の考えを言った。
「お前みたいに頭のいい奴は何考えてるか分からねえし、分かりたくもねえ。色んな奴ら待たせてんだ。時間がねえ。行くぜ、ロキ!」
トールは鎚ミョルニルを強く握りしめ、臨戦態勢を取った。そこに突如、怪しい影がひとつ浮かび上がる。
「テスカ!!」
ケツァルコアトルが咄嗟に叫んだ。テスカトリポカだった。
「…。“神柱”を壊していたのはお前たちであったか。ロキよ、そのままの姿ではやや戦況が苦しかろう。お前に力を与えるぞ。」
テスカトリポカが杖を振り、ロキへ光をかざすと、ロキが苦しみ出し、姿を異形へと変身させた。
ーグォァアアアアーッッ!
「な、何ッ!」
その異形の怪物はトール達の背丈を遥かに超え、猛々しく咆哮する。
「テスカ…お前…、なんで…ッ!!」
一連の黒幕がテスカトリポカによるものだったとケツァルコアトルはそこで初めて理解させられた。今まで疑念を抱きつつも心の何処かで友と呼べる、また家族とも思えるテスカトリポカを信じたその想いを木っ端微塵に打ち砕かれる。
「コアトルよ、お前は分かっていないのだ。この先迎える暗黒の未来も、またその結末も。俺はこの大地を守る神、テスカトリポカだ。何に代えてもこの地の未来は、俺が守る!俺は他に用があるのでな。さらばだ。」
テスカトリポカはそう言うと、暗い影を滲ませ立ち消えてしまった。
ーグォァアアアアーッッ!
その巨人はトール達に考える隙すら与えず、力一杯その巨大な腕を振り回す。
「ぐぉおおお…!!」
トールは両腕で防御するも、叩きつけられた絶大な力はトールのそれをゆうに凌駕し、トールの身体は吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまう。トールを呑み込んだその腕はそのまま勢いを止めることなくケツァルコアトルとフレイヤを同様に呑み込み、吹き飛ばす。
「ぐは…っ。」
たった一振りの拳で三人は致命的なダメージを負ってしまった。視界が霞む。
ーっブリシンガメンの慈愛…!
フレイヤは渾身の力で癒しの波動を周囲へ放った。トール達の痺れていた手足の感覚が次第に戻って行く。
息を荒げながらすまねェ、とケツァルコアトルが詫びた。
「どうやらお前たちの仲間を巻き込んじまったのは、俺の友だったみてェだ。本当にすまねェ。俺も全力でこいつを止めるぜ…!」
三人に戦意が漲った。見詰める先に君臨する敵は遥か巨大で、その身を賭しても刺し違えることすら叶わないかも分からない。それでも、引かない。人にはその人生の選択において、負けると分かっていながらも引いてはいけない場面が必ずあり、その選択を誤って逃げ出せば、時に命以上に大切な“何か”を失ってしまうことがある。それは人も神も同じである。引いた先に何が待っていると言うのか。うまく逃げ延びたとして、もたらされるものは逃げたという紛れも無い事実と決して晴れることのない後悔だけなのだ。
「行くぜッ!鏡泉!!」
「ダインスレイフの波動!!」
ケツァルコアトルがトールとの戦いで見せたメシーカ大陸特有の分身呪文を三人にかけ、フレイヤがアスガルド領域に伝わる筋力増強呪文で援護する。
「ロキ。俺はお前の心の闇なんか、分からねえ。俺がお前にしてやれることはただ一つ。全力でお前をぶちのめすことだけだ!」
トールは咆哮した。赤毛を逆立て、赤い目を真紅に染める。トールが拳に力を入れて英気を蓄えると、辺りに地鳴りが轟き、洞窟の天井からパラパラと土が落ちてくる。
「 ミョルニルよッ!力を解き放て!行くぞッ!うぉぉおおお!!」
トールがそう咆哮すると、ミョルニルが強烈に発光し、内から出た閃光の雷がトールの全身を覆った。それは鋼鉄よりも分厚く鋭利で、対峙する者へ絶望と浄化を与える神の怒り。ケツァルコアトルはトールの様子を見ながら、あの時俺にぶつけようとしたものはこれか、と思った。
三人は一斉に巨人へ立ち向かった。トールが最前線で自分の身の丈を何倍にも大きくした鎚ミョルニルを力一杯かなぐり回し、巨人の骨を粉砕すると、ケツァルコアトルが追い討ちに弱ったその腕や脚を鋭利な一閃でもぎ取って行く。巨人が怒り狂い、無差別に暴れ回ればフレイヤが決死の回復で前線二人を維持させる。
そうして一進一退の攻防を幾度となく繰り返した末、闘いは終わりを迎えた。
「トールよ…。お前の…勝ちだ。俺を斬れ。」
崩れた肉塊の中から顔を覗かせたロキが息も絶え絶えに、トールへそう告げた。トールは肩で精一杯息をしながらロキを見下ろす。
「…ロキ。お前のやったことは、許せねえ。だがなー」
トールはロキの体を持ち、力一杯引きずり上げ、巨人の身体からロキを引き離した。
「償い、っつうもんは生きてするもんだ。死んだらできねえだろ。ほら、帰るぞ。」
たった今まで命のやり取りをしたロキへトールはそう言って笑って見せた。この男、なんと懐が深いことか。
「ふ…ふはは。後悔するぞ、トールよ。」
ロキはトールへ込み上げる殺意を覚えた。この男を自分の手で殺してやりたい、ロキは心の底から湧き出る感情の一杯で、そう思った。興の対象が変わったロキから黒のオーラが浄化されて行く。
そうしてトール達は、ロキの心を取り戻したのであった。
ex.帰還
ー。
ー大変だ、ゲートの様子が急におかしくなりだした。今にも門が閉じそうだぞ!
時はメシーカ上陸から二十日目の朝。ロキ戦によって仲間の多くが傷付き、これ以上の捜索は危険と判断したフレイヤの進言によって、一行は一度ハデスらと合流しようと来た道を引き返していた。そんな折、ハデスから突然の悪い報せである。
ロキの救出から五日ほど道を戻ったが、ここから寄り道せず最短を取っても、如何に神速を超えるジャンの脚を以ってしても三日はかかる道のりだった。一同に帰れなくなる、という頭の片隅に追いやって居た恐怖が現実のものとなって今更込み上げて来た。
「…船乗のみんなを巻き込むわけには行かねぇから、これ以上は無理だ、って判断したら、旦那たちだけで帰ってくれ。」
アヌビスは気丈に振る舞いながら落胆を声色に出さないよう、努めて明るくハデスにそう告げた。
ーしかし…っ。……ギリギリまで待つ。また連絡する。
ハデスもそれ以上返す言葉が見つからない。他の守護者を救出するという大義を成したトール達にどうにかしろとも言えず、船乗達の前で必ず待つとも、言えなかったのだ。
現実は無情。空間転移の能力を持たないトール達に為す術は無いものと思われた。そんな中、ラファエルが平然とした様子で切り出した。
「このまま最短の道を進んでください。」
一行にラファエルが意図することなど知る由は無く、アヌビスが疑問をぶつける。
「ラファエルさん、今の話聞いてなかったのかい。俺たちはもう、帰れないんだぜ。」
ラファエルはそんなアヌビスの言葉を歯牙にも掛けず話を続けた。
「種明かしをするつもりは毛頭ありませんが、どうして私が一人、この大陸の奥地へ貴方がたよりも先に着けたと思います。大丈夫です、三日で着けるなら、間に合います。」
ラファエルの一切迷いがないその様子に一同は困惑するが、洞窟内で一度助けられたトールはラファエルを信じようと言った。
「どんなからくり使うのかは分からねえけど、他に策があるわけでもない。ラファエルの言う通りにしてみよう。」
「トール、貴方との決着は、いずれ。」
ラファエルはすました顔でそう言った。
フレイヤがジャンに合図を送ると、ジャンは全速力で空を駆けていく。
ー。
(くっ、ゲートが持ちそうにない。最早ここまでか…!)
アヌビスとの念話を終えて数刻した頃、ハデスはゲートを見据えながら覚悟を決めた。
「全員、船に乗れ!出発するぞ!」
(すまぬ、みんな。必ず、必ずやまた、迎えに来るぞ…!)
船乗達が大急ぎで出発の支度をすると、船はゲート目掛け海にその身を投げた。
「待ってくれ!」
大陸へ背を向けたハデスの後方から声がする。まさかな、と思い振り向くと、そこにはトール達が居た。
「俺たちも乗る!乗せてくれ。」
急いでトール達は船に乗ると、ケツァルコアトルは海上に独り佇み、トール達を見詰めていた。
「ウィンド!!」
トールがケツァルコアトルに向かって叫ぶ。
「トール!お前たちとの旅、楽しかったぜ!あばよ!!」
トールはケツァルコアトルの心意気に胸を打たれた。今生の別れになるであろうことを二人は心のどこかで分かっていたが、しみったれた別れの挨拶など二人には似合わない。
「いつかまた会おう!ウィンド、元気でな!」
次第にケツァルコアトルの姿が小さくなる。
船は全速力で駆け込むようにゲートへぶつかった。一行は無事、デュナミスへと続く道に間に合った。
そこから先、どうやって各々が自分たちの領域へ帰ったのかは省くことにしよう。
そうしてトールの“気ままな散歩”は幕を閉じることとなる。
トール達の背後には雄大な大地が広がっている。
その地の名は、メシーカ。幽玄なる魔力と生命の鼓動に溢れた、あらゆる自然と文化を内包する魅惑の土地であるー。
End
あとがき
改めまして、YOSHIと申します。
この度はメシーカ アナザーストーリーを読んでいただき、ありがとうございました。先ずは心より御礼申し上げます。
このストーリーはデュエルエクスマキナ(DXM)を題材に、私の膨らませた妄想を思いのままキャラや世界観へ反映させ、描きました。
まだ私が幼い頃、HOBBY JAPANより刊行された「デュエリスト ジャパン」にマジックザギャザリング(MtG)のバックストーリーを読み物にした定期コラムがあり、私は毎月それを読むのが楽しみでした。マジックの世界は幾つもの世界が隣接し、主人公はその多元宇宙と呼ばれるあらゆる世界を旅して回るのです。今回は幼い頃にそのコラムやマジックのカード中にあるフレーバーテキストを読んでワクワクした気持ちを思い出しながら書きました。
無い頭をひねり、オフ時間の大半を注ぎ込んで約1ヶ月の工程で作った今作は、ひとつの話が大体1500文字、読む時間にして大体3分程度で読めることを意識しています。(最終的には全21話、約36000文字、1時間半ほどの読み物となっています。)原稿用紙にすると90枚、ろくにゲームもせず書いていたので我ながら熱量を持って取り組んだと思います。
このストーリーを生み出すきっかけはすごくシンプルで、アスガルドのトールがゲーム中に攻撃を受けると喋る「タダではやられんぞ!」、それを物語の中で文章に起こしたい!その一心からです。実際には1部で私個人のカタルシス()は得られたのですが、あまりにストーリーが中途半端なため、これは最後まで書くしか無いか…、と謎の使命感を持って書き上げています。
やってみて思ったのは、真っ先に、大変なことが多かったです。(笑)どこまでできたか分かりませんが、世界観を読者に共有してほしいために背景を掘り下げることや、会話と情景の繋ぎ部分がスムーズに行かないことなど、うまく行かなかったことは沢山ありました。書くことを仕事にしている人には頭が下がる想いです。(極め付けはジャンというオリジナルキャラを苦し紛れに創作してしまい、申し訳ありませんでした…!)
それでも、やって良かったと思っています。好きなこと、やりたいことを、余計な先入観や苦手意識は置いておいて、とりあえずやってみる。それを実践しああ、自由だな。としみじみ思いました。
ちなみに物語を書く時はいつもその場面場面に合った音楽を裏で流しながら書きました。
【20.決戦】はこれで最後!と思いつつFF6の「決戦」を聴きながら。(FF6のBGMは神)
【FF6】24. The Decisive Battle - 決戦 High Quality Soundtrack 高音質 作業用BGM サントラ - YouTube
【ex.帰還】は別れの哀愁を漂わせるべく、Alicia Keysの「If I Ain’t Got You」を聴きながら。
Alicia Keys - If I Ain't Got You - YouTube
少し話は逸れますが、カードゲームはそのジャンル性から、特に論理的思考や計算が聞き手に説得性を持って受け取られるものだし、発信する側も正しいことを発言することに捉われがちです(少なくとも私はそういう部分があります)。でもこれを書いてる最中に思いました。もっと、自由でいいんだな、って。万人が正しいと思えることを当たり前のように発信するのではなく、自分はこう思ってるんだけどみんなはどう?という自分の中にある曖昧な概念や疑問を発信してこそ、自由と発展があるのだと思います。
最後になりましたが、私が生んだこの作品に読者の方が少しでも面白みを感じていただいたり、前向きな気持ちになれるようなきっかけとなれれば、この上なく嬉しく思います。
また、日頃楽しませてもらっているDXMには、今回このような謎の衝動を掻き立ててもらい、(クオリティは別として)最後までやり遂げることができて、感謝しております。
稚拙かつ、難解な文章が多かったと思います。ここまで読んでくださった全ての方に、感謝します。
また、ゲーム内、SNS(@YOSHI_raface)にて。今後とも、宜しくお願い致します。
ありがとうございました。
YOSHI
【非公式】メシーカ アナザーストーリー 第3部
これは主の頭の中の妄想を膨らませた非公式のメシーカ。アナザーストーリーであるー。
※全4部構成、次回最終予定です。
目次
11.核心
ー。
幽玄なる壮大な大地、メシーカ。そこは魔力と活力で溢れ、生あるこの世界の全てに力を与えてくれる魅惑の土地。朝靄の戦いから数刻。昇る朝日が眩しくこの世界のはじまりを知らせている。森の奥からは小動物の声が聞こえ、木や土や、水の精が活発になる。どうやらこの近辺を覆っていた禍々しくも急き立てられたような異様な雰囲気は浄化されたようである。
一行はケツァルコアトルを交え、今後の方針を話していた。激戦の果てにハデスとアテナは重篤な傷を負ったが、人智の及ばぬ持ち前の神力とフレイヤの加護によってハデスは回復、アテナは未だ目を覚まさないが闇のオーラは立ち消え心身に別状はないと思われた。
「まずはじめに、お前たちのこと洗いざらい話してもらおうか。事によっちゃァ、俺はお前たちをこの場で斬り捨てなきゃならねェ。」
この地を守る風の神、ケツァルコアトルの目が爛々とあやしく光っている。纏うオーラは一分の隙もなく、この場にいる全員を呑み込む勢いだ。
「では、私から説明しよう。」
ハデスが口火を切った。フレイヤがハデスの心身を慮るがハデスはそれを、いい、と断る。先程まで虚空を彷徨ったのだ。実際のところハデスの傷はその場に居座るだけで気を持っていかれそうな満身創痍の状態であった。それでもハデスがその役を買ったのは、ハデスが先の戦いで到達した解がこの先の皆に必要だと分かっていたからである。
「私の名はハデスと言う。この場に居る者は皆、貴君と同じく神である。この世界とは異なる次元でそれぞれが役目を持ち、その地に恩恵と秩序を与えている。貴君が今朝方対峙していた彼の女神も我々と同じ世界の者で、我々の仲間だ。」
ハデスは慎重に言葉を選びながら、異界の巨神に話し始める。そこまで聞いてケツァルコアトルは早計に目を見開いたが、正面に居座ったトールが目を配りまあ、待てよ。と合図することで収まった。
「時は我々の世界の時間軸で百六十日程前になる。我々の世界に突如この地へ繋がる門が開かれた。我々は未知の脅威に対し調査隊を派遣したが、待てども、待てども還らない。そこで我々が仲間の消息を確認するため、この地へ赴いたのが昨日のこと。その後の我々の動向については貴君も知る通りである。」
ケツァルコアトルは丸太のように太い両腕を組み、話を聞いている。まるで巨木がそこに座っているかのようだ。
「私がアテナとの戦いで得た結論を話そう。一つ。アテナを始め、この地に赴いた調査隊は何者かによって拘束、または霊的な力の強い者はマインドコントロールを受け自我を失っている。もう一つ。そのマインドコントロールを解く鍵は、“心の闇”だ。」
「洗脳だって?この世界の事は俺が一番よく知ってる。そんなことする奴ァ、一人も…。…ッ!」
ハデスが話を切り替え持論を展開すると、不当な見方に納得のいかない様子でケツァルコアトルはつい話を割ってしまったが、途中で何か気付いたように沈黙した。
「…何か思い当たる節があるようですな。」
ハデスは話の腰を折られたことを気にせず、落ち着いた口調で切り返す。ケツァルコアトルは深く思考しながら自分の頭の中を整理するように、この世界のことを話し始めた。
「この地、メシーカにはテスカトリポカっつう神がいる。俺が風でアイツが土。俺たちは二人で一対なんだ。俺たちの時間軸とお前たちのそれが一緒か分からねェが、大分前だよ。ある日を境にテスカはおかしくなっちまって、姿を消しちまったんだ。そっから徐々にこの世界の空気が乱れてきてな…。獣は狂って人を襲い始め、草木は命を縮めた。俺は日増しに濃くなる異変の影で、“高濃度のマナ帯域”をいくつか見つけた。モヤがかかったようなジメジメしたオーラだ。その特異点にコトの原因があると俺は踏んで、手始めに来た海岸で出食わしたのが昨日の女さ。」
…なるほど、だから贄、か。聡い者には話の全容が見え始めている。
「こりゃあーそのテスカなんとか、って奴が裏で糸引いてるに違いないっすねえ!」
アヌビスはいつもの調子で空気を読まず神経質なところを突っ込む。この男、聡さは群を抜いているが単に好奇心が強いのか、はたまた自分の胆を試しているのか。フレイヤにはアヌビスの意図が推し量りかね、堪らず溜息を吐いた。
「テスカはそんなんじゃねェ!」
案の定、ケツァルコアトルは拳を木の卓に叩きつけ怒りを露わにした。
「ひええ、怖っ!悪かったよ。」
アヌビスにフレイヤの睨むような深い意図はない。いつだって分かっていながらも、掻き乱したいだけなのである。そこから拾える他の者の傾向や性格はどこまでいっても副産物に過ぎない。
「大体見えて来ましたわね。ハデスさん、話を戻して、洗脳された者を解放する鍵とやらについて、もう少し詳しく教えていただけますか。」
フレイヤが仕切り直した。
「うむ。うまく言える自信が無いのだが…まあ聞いてくれ。アテナは自らを戦地に置く事で自身の大切な者を護ることを選んでいる。私はそんな彼女の優しさや慈しみが戦では弱さになると思い、認めることをしなかった。信じ切ることができなかった。それが彼女の心に闇を落とし、結果引きずりこまれたのだと思う。今、彼女が戻って来れたのは皆が想像する通りだ。私はアテナに対する認識を改めた。」
ハデスは自分のことを話すのが苦手な様子で、俯向きながら控えめにそう話した。
洗脳された者の心を拾う。それは、途方もない難題であった。
12.知己
ー。
ハデスの口から出た予想しなかった事態。ハデスがアテナを救い出せたのは奇跡と言っていい。
「ってことは、イシスや他の神さん達も何らかの心の闇に身を落としてる、ってことですかい。これは思ったより遥かに難儀そうだなあ。」
アヌビスはイシスの顔を思い浮かべ辟易する。
「左様。ただ倒せば良いというわけではない。闇に囚われた者が内に秘めた心の引け目や痛み、それを理解してやらねば、魂は縛られ続けるだろう。」
ハデスが一同の心中を推し量るような面持ちで話すと、皆自領の神に思いを馳せ、果たして救い出すことができるのか、と沈黙する。
「関係ねえよ。」
トールに迷いはなかった。
「ロキが何考えてようが関係ねえ。この世界に迷惑かけてる、ってんならぶっ飛ばす。そんで縄つけてでも連れて帰るだけだ。」
兄貴ぃ、とアヌビスは拍子抜けした。
「兄貴、今の話聞いてました?」
「ハッハッハッハ!トール、お前ェ、そうだよな!俺がお前でも同じこと考えるぜ。」
ケツァルコアトルが腹を抱えて笑っている。無論ハデスの言う通り、対象の心の闇を見つけ、払拭してやらなければ救えないのは事実であったが、会ってみないことには話は何も進まないのだ。
「はんっ、まだお前たちのこと完全に信用した訳じゃねェが…今朝の一件からこの辺の生き物が息を吹き返したのは俺も解ってる。トールとお前たちを信じることにしよう。俺も協力するぜ。」
ケツァルコアトルは力強くそう言った。
「本当か?ウィンド、ありがてえ。恩に着るよ。」
トールはケツァルコアトルの事をウィンド、と呼ぶことにしたようだ。トールは気にいると何の脈絡もなく、本人に承諾を得ないまま勝手にあだ名で呼び出す。ケツァルコアトルは自分に付けられたあだ名をさして気にする様子もなく、二人でガッハ、ガッハと笑い合っている。そんな二人の様子を見ているとなんだか小難しく考えているのが馬鹿らしく思えてくるから不思議だ。フレイヤはそれを見ながらトールがこの世に二人と居ない百年の知己を得たのだと思った。
「してお前たち、目的地までどうやって行くつもりだ。」
ケツァルコアトルが話を切り替え遠征の手段について聞いた。如何に神の強大な力を以ってしても、生身でこの世界を渡り歩くのは広すぎるとケツァルコアトルは指摘する。
「陸路は勧めねェ、効率が悪い。この先目的地まではジャングルや地下道、山や川を幾つも越えなきゃなんねェ。天然の要塞で異変に侵された獣どもがウジャウジャいる中、道無き道を進むことになる。そうしてる間に異変がこの世界を食っちまうかも分からねェ。」
しかしトール達の中にはマキナのような空間転移の力を持ち合わせる者がいない。一行には陸路を選ぶ他に、選択の余地はないと思われた。
「そこで提案なんだが、俺の風の力をお前たちに貸してやる。そうしたらお前たちは空を飛んで最短距離で目的地へ行くことが可能だ。時間はそうだな…特異点の放つオーラの距離から考えて、陽が両手の数ほど登る頃には目的地を全て周れるだろう。でも空の旅には陸路とは別の問題がある。ワイバーンだ。」
ワイバーンは竜の亜種でその眷属とされる飛竜の総称である。大型で気性が荒く、鎌のように太く鋭い牙とかぎ爪で一度捕捉した獲物を執拗に追い回して離さない。竜のように火を吐く種も中には居るらしい。ケツァルコアトル曰く、この世界で竜は悪の象徴とされ、竜にまつわる呪われた伝説が存在し、この世界の歴史は神々と竜の戦いであるということだった。トールはケツァルコアトルの話を聞きながらこの世界の竜を自分たちにおける巨人族のようなものと認識した。
「この先、空はワイバーンの庭になってる。最近ワイバーンの数が急に増えてよ。これも異変の影響だ。俺一人なら奴等をいかようにも振り切れるが流石に五人、十人に力を振り分け大所帯で移動したら戦闘は避けられねェだろう。ワイバーンは個体一匹一匹は敵わねェ相手じゃねえが、何十匹と囲まれたらいくらお前たちでも全滅だって有り得るだろうよ。」
トールと五分に渡り合った屈強な男がそう言うのだ。相当危険な道であることが容易に想像できる。トール達はここへ来る道中に遭遇したスキュラの戦魚の大群を思い返した。空は海上よりも身体の自由が利かないだろう。
「さァ、陸か、空か。お前達で選べ。」
ケツァルコアトルは一頻り説明を終えるとトール達の覚悟を問うように迫った。
13.決断
ー。
一行はケツァルコアトルの問いに対し思慮していた。空を選べばその危険の対価に何十、何百倍も時間を短縮できるだろう。逆に陸路を選べば身の危険は大幅に減るだろうが当ての無い膨大な時間を掛けることとなる。この大地における異変が刻々と変化し、もはや守護する立場のケツァルコアトルにも全てを掌握できていないことは明らかである。加えて自分達は異界者。どんなところで足元を掬われ命が危険に晒されるかも分からない。しかしワイバーンの脅威は無視するにはあまりにも強大過ぎる。全滅しては意味がない。どちらを取っても正解とも不正解とも言い難かった。
「空だ。俺たちは空を行こう。」
アヌビスらの目まぐるしい逡巡は時間にして一秒か二秒。各自結論を出せない中、またしてもトールは即断即決そう言い切った。その表情から迷いなど微塵も感じない。
「兄貴、また念のため確認しますが風の旦那の話は聞いた上でそう言ったんですよね?」
トールの答えの速さにアヌビスが警戒して確認する。
「当たり前だろ!これはもう、俺たちだけの問題じゃなくなってる。早く行った方がいい。元より陸を行く他なかった俺たちにウィンドは力貸してくれる、っつってんだ。断る理由は作らねえ。」
断る理由は作らない、それはトールらしい答えだった。ケツァルコアトルはこの大地を守る役目を持つ、ある意味この中で誰よりもこの問題の当事者である。陸路は勧めない、と言ったのはささやかな感情の漏れであった。自身が護るべき大地が刻一刻とおかしくなっていくのを目の当たりにしながら、トール達に選択の余地を与えてくれたのである。それはケツァルコアトルの温情だった。保身を考える者が多い中、トールは小難しく考えずとも直感でそういう決断ができる。受けた情や礼があれば、自らのリスクなど気にしないからだ。
「私も空行きを支持する。無論リスクは無視できんが、どうやら俺たちには安穏と時間をかけても居られんらしい。」
ハデスがトールの意見に賛同しながら一方を指した。ハデスの向けた指の先には自分達がこの世界へ渡って来た次元のゲートがある。空間の中にぽっかり穴が空いたように大きく開いたその門は来た時と様子が異なり、漆黒であったはずの円は光を帯び、中心へ向けて渦巻くようにエネルギーが収束している。
「な…っ。ゲートが…!」
何が原因でそうなったのか、そしてその事象が起こしうる結果を知る由は無かったが、恒久と思われたものにも変化がある。それは一行に自分達の世界へ帰れなくなることを想起させた。船乗達がざわざわと騒ぎ始める。
事態が事態である。アテナを保護し、問題の原因や他の調査隊の処遇もおおよそ予測がつく。ここで引き返してもトール達は当初与えられた任務を十分に全うしたと言える。だがハデスはトールの言葉を待たずに言った。
「行くのだろう、トールよ。今更止めはしない。皆を救い、全員で必ず帰ろう!」
共に戦い死線を越え、生まれた信頼がハデスを変えた。トールはハデスの意気を受け取り力強く頷く。それを見てアヌビスらもいよいよ心を決めたようだ。全体の士気が上がる中、そこでフレイヤが意外な提案を持ち出した。
「ジャンに目的地まで運んでもらいましょう。」
それは一行を救う奇策であった。
14.奇策
ー。
猫に連れて行ってもらおう。士気が上がり火照った空気の中フレイヤが意外な言葉で周囲の意表をつく。
ジャンとは、フレイヤが帯同している猫の名前である。叡智に長け思慮深いフレイヤがこの状況で冗談を言うわけがない。一同は誰一人茶化すことなくフレイヤの話に耳を傾けた。フレイヤは説くより見た方が早いと言わんばかりに一つ呪文を唱えると、今しがたフレイヤの胸元に包まれていた小さな猫がむくむくと大きく成長し、猛々しい姿に変貌した。背丈は並の帆船に迫り、巨漢が自慢のトールもジャンの腕にしがみ付けそうである。それを見て一同に大きな衝撃が走った。
「ケツァルコアトルさん、この子の大きさでも風の力を付与できるかしら。」
ショックで開いた口が塞がらないケツァルコアトルは戸惑いながらもやや遅れて問題ない、と返事をする。それを聞いてフレイヤは微笑むと、ジャンに一言ごめんね、と言って計画を話した。
「この子はただの猫ではありません。私の加護を受けた聖獣です。ジャンは光彩を利用した変態能力を持っていて、透明になれます。皆さんはこの子の毛の中に身を埋めて行けば、ワイバーンに気付かれることなく目的地まできっと行けますわ。」
フレイヤはそう言うとジャンに合図を送り、今度は透明にさせて見せた。ジャンの体が滲み出し、次第にゆっくりと背景に溶け込んで行く。これならば接触する程の超至近距離でなければまず分からないだろう。ウズメが確認のため近寄って手を前にかざすとふわっとした毛に触れた。
「すごい…。」
大胆な計画であった。しかしこれはフレイヤの策である。移動速度は神のそれをゆうに超え、ケツァルコアトルの力も分散させずに済む。効力の持続時間、解除条件、どれを聞いても目立った問題は浮かばない。メリット尽くしなのである。これで行こう、全員の意見がまとまるまで時間はかからなかった。
「おっさんは船のみんなとここに残ってくれ。救出は俺たちだけで行く。」
トールははじめからそう決めていた様子でハデスにそう言った。アヌビスらもその意見に賛同する。
「旦那、まだ立ってるのも辛いでしょーから、アテナさんと一緒に待っててくださいよ。ゲートのことも気になりますしね。何かあったら、念話で教えてください。」
念話とは霊的な力の高い一部の神に備わる能力で、物理的に離れた相手の頭の中へ直接語りかけることができる。ハデスは悪びれながらも、この身体で行っては返って足手まといになるやもしれん、と思い直し、トール達の意思を承諾した。
「何かあったら知らせる。お前達が戻ってくるまでに私は帰りの手段をどうにか用意しよう。武運を。」
ケツァルコアトルがジャンに風の力を施す。五人はジャンの体に乗り毛の中に身を埋めると、ハデスの視界から見えなくなった。
「じゃあ、行ってくるぜ!」
ジャンのぎゃう、という声でトール達は陸からぐんぐん離れる。羽も生えていないのに奇妙な感覚だった。息つく暇もなくあっという間に木々を飛越し、ハデスの姿が見えなくなると、トール達の視界いっぱいにメシーカの自然が広がった。
「す、すげえ…。」
この世界は美しかった。西日がきらきらと輝いて眩しい。
「さァ、一気に行こう、先ずはここから一番近い丘陵地帯だ!」
ケツァルコアトルが号令し、フレイヤが合図を送ると、おおよそ考えられない凄まじい速度でジャンは走りだした。
これで良かったのだろうか、一行を送り出したハデスは答えのない思考に捉われそうになりながら、今の自身に出来る最良を尽くそう、と思い直した。野営の準備を指示する中、船乗の一人がハデスに駆け寄る。
アテナが目覚めたという報せであった。
15.仲間
ー。
「ここは…。」
アテナがふと見上げた先には吸い込まれるような深い青と宝石を散りばめたように輝く星々が覆っている。美しい。それは果てない夢の続きを見ているようだった。この空がこの世のあらゆる咎を赦し包み込んでくれるようだ、アテナはそう思いながら目覚めた。
「目が覚めたか。」
ハデスが彼女の下で優しく声をかけると、アテナは全てを悟り、涙で顔面をくしゃくしゃにした。
「申し訳ございません。私…私…。」
自責、後悔、感謝、そして安堵。込み上がる想いが溢れそれ以上言葉が出てこない。
「良いのだ。今はゆっくりと休みなさい。然るべき時に、また立ち上がれるように。」
それだけ言うとハデスはアテナの下を去った。アテナは自身の弱さを痛感し、また庇護されていることに感謝しながら、強くなりたい、何度も噛み締めるようにそう思った。
一方、勢い良く飛び出したトール達は星散る夜空を背に目的地へ向け猛烈な速度で進行を続けていた。ジャンの夜に冴える発達した目と、比較的、日中活動するワイバーンの活動周期から、夜に歩を進めた方がより危険を回避し、効率よく先へ進めると判断してのことだった。ジャンはトール達を背に乗せ、宇宙のように広がる空を閃光の如く駆け抜けて行く。高度があるため酸素が薄く、常人であればとっくに意識を失っているところだが、そこは流石に神である。一同地上となんら変わらぬ様子で飄々としている。
「うひゃあ、外に頭出したら風に首持ってかれそうでしたよ。滅茶苦茶速いっすね、このネコ!」
アヌビスがジャンに畏敬の念を抱いている。勿論ジャンは万能ではない。フレイヤ曰く、太陽でも、月でも構わないが、媒介となる光が雲で陰るなどして失うと透明能力は効果を保持できないこと。また、ジャンは酷く臆病であるため戦力の期待はおろか、戦闘になった際はジャンを傷つけないよう細心の注意が必要であるとのことだった。
ふと、夜空に照らされたウズメの顔がフレイヤに映る。ウズメは宙に浮かぶ星空を見上げながら黄昏に何か思い耽る様子だった。
「不安、ですか?」
フレイヤはウズメの心中を察して声を掛ける。
「あはは、参りました。フレイヤ様は何でも御見通しですね。」
ウズメははにかんで舌を少し出しながら微笑し、乱した心を落ち着かせるように自分の頭を叩いてそう答えた。
「私、スサノオ様を救える自信がないんです。私はトール様のように強くもないし、フレイヤ様のような機知も有りません。第一スサノオ様が何を考えてイズモ領を飛び出して行ったのかさえ、よく分からないんです。こんな私がスサノオ様の心を拾えるのかな、って。」
ウズメは余裕がないのか、或いはフレイヤに気を許したのか分からない。いつもと違った少し崩れた口調で胸の内をフレイヤに話した。皆口に出さずとも、似たような感情を抱いているに違いなかった。
「ウズメさんは謙遜しすぎですわ。」
フレイヤは何の含みも持たせず、手放しで思うことを言った。
「私もあの悪童の化身のようなロキの心など解りませんし、解りたくも有りません。もし救えなければそれで良いと思っています。開き直ってる分、私は質が悪いですね。ふふ、それでも…何とかなるような気がしています。私にはあなたのように優しく他を思いやれる方や、トールのような考え無しの無鉄砲、それでも周りから愛されるような“仲間”が居ますから。スサノオさんも、他の守護者も、皆私たちの仲間ですわ。自分でどうにもならなかった時は、仲間に全て委ねてしまいなさい。少なからず、それを厭う者はこの場に居ません。」
「フレイヤ様。ありがとうござい…ます…!」
フレイヤの微笑みがウズメの心に優しく染み渡る。自分一人で戦ってるんじゃない、それは脆く崩れかけたウズメの心にとって、一筋の光明となった。自分に何ができるか、何もできないかも知れないけど、せめて前を向いていよう、ウズメはそう決心し、瞳を閉じた。
ジャンが割く空気の轟音をよそに神々は思い思いの時を過ごす。
「ロキ、待ってろよ。」
トールは夜空を見上げながらこの旅の終わりを微かに想像し、気を引き締めるのであった。
To be continued..